【新薬解説】「赤ちゃんのその咳、守れるかもしれません」RSウイルスから子どもを守る新しい盾、ベイフォータスのお話
こんにちは、ユアクリニックお茶の水の院長です。
寒くなってくると、私たち小児科医がちょっと身構えるウイルスがいるんです。それが「RSウイルス」。
先輩医師からこんな話を聞いたことがあります。「RSの流行時期は、夜中の当直室で赤ちゃんの咳き込む音が聞こえると、自分の胸まで苦しくなる」と。それくらい、小さな赤ちゃんにとっては厄介な相手なんですね。
「先生、うちの子、まだ生まれたばかりで体力が心配なんです。RSウイルスって怖いんですよね?」
診察室で、新米のお母さんからそんな相談を受けることが増えました。その不安、本当によくわかります。でもね、今年はちょっと朗報があるんですよ。今日は、このRSウイルスから赤ちゃんを守るための新しいお薬、「ベイフォータス(一般名:ニルセビマブ)」について、少しおしゃべりさせてください。
ベイフォータスとは?ワクチンとの違い
「それって、新しいワクチンですか?」とよく聞かれます。
実はこれ、厳密にはワクチンではないんです。ここがちょっと面白いところなんですが、例え話で説明しますね。
ワクチンというのは、いわば「避難訓練」や「空手教室」みたいなものです。弱らせたウイルスを体内に入れて、自分の体が「敵だ!」と認識し、戦い方を覚えるまで少し時間がかかります。
一方で、今回紹介するベイフォータスは、「抗体医薬品」と呼ばれています。
これは、言うなれば「プロのボディガードを雇う」ようなもの。
注射されたその瞬間から、ウイルスという敵を見つけ出して戦ってくれる「抗体(戦う武器)」が体の中に入るんです。だから、打ってすぐに効果が期待できる。しかも、特殊な加工がされているので、このボディガード、一度雇うとひと冬の間ずっと(長期間)赤ちゃんを守ってくれるんです。すごく頼もしいでしょう?
ベイフォータスの投与対象と保険適用について
さて、ここからが少し現実的なお話です。
「じゃあ、みんな打てるんですか?」と聞かれると、答えは「打てますが、条件によって費用が大きく異なります」となります。
このお薬、実はとっても高価な「スーパーボディガード」なんです。
保険が適用されるのは、RSウイルスにかかると特に重症化しやすいリスクを持っているお子さんたちです。
具体的には、
- 早産で生まれた赤ちゃん(お母さんのお腹にいた期間が短い場合)
- 生まれつき心臓に病気があるお子さん
- 慢性的な肺の病気があるお子さん
- ダウン症候群のお子さん
- 免疫の働きが弱いお子さん
(※それぞれ月齢などの細かい条件がありますので、必ず診察室で確認してくださいね)
こういったお子さんたちは、RSウイルスが悪さをすると本当に入院が必要になることが多い。だから、国がしっかりサポートして、保険診療で守ってくれるわけです。
自費診療となるケースと費用について
では、それ以外の元気な赤ちゃんはどうなのか。
海外ではすべての赤ちゃんに推奨されている国がほとんどですが、2025冬の日本のルールでは、上記以外のお子さんは「自費診療」となります。
ここで、正直に言いますね。金額を見て驚かないでください。
当院での価格設定は以下のようになっています。
| 体重5kg未満(50mg) | 600,000円 |
|---|---|
| 体重5kg以上(100mg) | 1,000,000円 |
| 2シーズン目などで体重がある場合(200mg) | 2,000,000円 |
「えっ、ゼロの数、間違ってませんか?」
そう言いたくなりますよね。私も最初に聞いたときは、医療機器の値段かと思いました。
でも、これだけ高精度のバイオテクノロジーで作られたお薬なんです。
「うちの子は保険の対象だけど、自己負担額も高いんじゃ…」
そう心配されたお母さん、安心してください。日本には素晴らしい制度があります。
自治体の「乳幼児医療費助成制度(マル乳)」や「高額療養費制度」が使えます。これを使えば、窓口での支払いが無料になったり、月々の上限額を超えた分が戻ってきたりします。手続きは少し手間かもしれませんが、私たちがサポートしますからね。
ベイフォータスの注射後の注意点
注射は、太ももの外側(大腿前外側部)に打ちます。ちょっと痛いかもしれません。泣いちゃう子もいますが、それは元気な証拠。よしよししてあげましょう。
副作用についても隠さずお話ししますね。
よくあるのは、打った場所が赤く腫れたり、熱が出たりすること。発疹が出ることもあります。
ごく稀ですが、アナフィラキシー(強いアレルギー反応)や、血小板が減ってしまう副作用も報告されています。
もし、注射のあとに顔色が青ざめたり、冷や汗をかいたり、体に赤いポツポツが出たりしたら、すぐに対応します。
まとめ:ベイフォータスは重症化予防の盾
ベイフォータスは、RSウイルス感染症を「完全にゼロ」にする魔法ではありません。でも、入院が必要になるような「重症化」を防ぐ、非常に強力な盾になってくれます。
あるお母さんが言いました。「値段は高いけれど、この子が苦しまずに済む選択肢があること自体は嬉しい」と。
もちろん、手洗い・うがい、人混みを避けるといった基本的な対策も忘れずに。
冬の寒さが厳しくなる前に、大切なお子さんをどう守るか、一緒に考えましょう。
わからないことがあれば、ユアクリニックお茶の水で、いつでもお待ちしています。
