赤ちゃんの頭の形。比較をやめて矯正という選択肢を。
今日は、診察室で多くのお母さん、お父さんからこっそりと相談される、ある「悩み」についてお話ししたいと思います。
皆さんは、こんな経験はありませんか?
天気の良い公園。ベビーカーを押して散歩していると、向こうから同じくらいの月齢の赤ちゃん連れのご家族がやってくる。すれ違いざま、ふと相手の赤ちゃんの頭を見てしまう。
「わあ、すごく綺麗なまんまる頭…」
そして、自分の子の頭に視線を落とし、つい比べてしまう。
「うちの子、やっぱり少し斜めになってるかも…」
「私がいつも同じ向きで寝かせちゃったからかな…」
胸がチクリと痛む瞬間ですよね。焦る気持ち、痛いほどわかります。
だからこそ。もう、「他人の子との比較」は終わりにしませんか?
そして何より、「私のせいだ」とご自分を責める呪縛から、どうか解放されてください。
なぜなら、赤ちゃんの頭の形の歪みは、遺伝でもなければ、お母さんの愛情不足でもないからです。多くの場合、それは単純に「物理的な力」の結果なんですよ。それに、向き癖は子宮のなかにいるころから始まっているんです。
少し専門的な話をしましょう。でも、難しく考えなくて大丈夫です。
生まれたばかりの赤ちゃんの頭は、まるでつきたてのお餅や、柔らかい粘土細工のように非常に柔軟です。これは、狭い産道を通って生まれてくるため、そして脳の急激な成長に対応するために必要な柔らかさなんです。
この時期に、例えば寝ている間の「向き癖」で常に同じ場所に重力がかかったりすると、その部分が平らになってしまうことがあります。これを医学的な専門用語で「位置的頭蓋変形症(いちてきずがいへんけいしょう)」と呼びます。
なんだか難しい漢字が並んでいますが、要するに「寝ている姿勢によって頭の形が変わってしまった状態」ということです。病気というよりは、一種の「状態」と言ったほうが近いかもしれません。
「でも、どうすればいいの?もう手遅れ?」
そんな不安な声が聞こえてきそうです。でも、安心してください。物理的な力で形が変わったのなら、逆に物理的な力で綺麗に整えてあげることができるんです。
それが、近年注目されているヘルメット治療などの矯正方法です。
イメージとしては、「歯列矯正」がわかりやすいかもしれません。歯並びを綺麗にするために矯正器具をつけるように、赤ちゃんの頭の成長に合わせて、オーダーメイドのヘルメットで優しく形を誘導していくのです。
以前、当院で治療を受けたあるお母さんが、こんな風におっしゃっていました。
「最初はヘルメットなんてかわいそうかな、と迷いました。でも、治療を始めて頭の形が少しずつ丸くなっていくのを見て、本当にホッとしました。何より、ベビーカーですれ違う他の子を見て落ち込むことがなくなって、心から育児を楽しめるようになったのが一番嬉しいです」
この言葉を聞いたとき、私も医師として本当に嬉しく思いました。
もちろん、すべての赤ちゃんに治療が必要なわけではありません。成長とともに自然に目立たなくなるケースもあります。
大切なのは、一人で悩まないことです。「ちょっと気になるな」と思ったら、私たち小児科医に気軽に相談してください。頭の形を専門的にチェックして、治療が必要かどうか、どんな選択肢があるのかを一緒に考えましょう。
育児はただでさえ大変なことの連続です。不必要な罪悪感で、お母さんやお父さんの笑顔が曇ってしまうのは、私たち医療者にとっても一番悲しいことです。
赤ちゃんの頭の形は、適切な時期に適切な介入をすれば、綺麗に整う可能性が十分にあります。
「私のせい」という重荷を下ろして、今日からまた、お子さんの可愛い笑顔をたくさん見てあげてくださいね。私たちユアクリニックお茶の水は、そんなご家族のサポーターでありたいと願っています。
