「えっ、大人もあの細い針でいいんですか?」痛みが苦手なパパ・ママに捧ぐ、インフルエンザワクチンの新常識
急に冷え込んできましたが、体調を崩されていませんか?診察室の窓から見える神田川沿いの街路樹も、すっかり冬の装いです。さて、今日はちょっと「大人」の話をしましょう。そう、いつもはお子さんの付き添いで来てくださる、あなたのことです。
大人のためのインフルエンザ予防接種:恐怖心の克服
正直に白状してください。「インフルエンザの予防接種、実はめちゃくちゃ怖い」って思っていませんか?
診察室でこんな光景をよく目にします。
3歳の息子さんが、涙をこらえて注射を頑張った直後です。次はパパの番。「お父さんも打ちますか?」と私が聞くと、さっきまで「泣かないで偉いぞ!」と息子を励ましていたパパの顔が、一瞬で曇るんです。
「あ、いや、僕は……仕事が忙しくて、その、また今度……」
その横顔に浮かぶのは、「忙しさ」ではなく、紛れもない恐怖です。
でも、それを笑うことなんてできません。私だって、医者になる前は注射が大嫌いでしたから。大人だから痛くないなんてことはないんです。むしろ、大人は「痛み」を「我慢」しなきゃいけないというプレッシャーがある分、タチが悪いかもしれませんね。
大人の予防接種における誤解
ここで、ひとつの誤解を解きましょう。
「大人の皮膚は厚いから、太い針じゃないとダメだ」なんて思っていませんか?
それは、昭和の時代の迷信です。
実は当クリニックでは、大人の方にも、赤ちゃんに使うのと同じ極細の針を使用しています。
専門用語で言うと、「ゲージ(G)」という単位があるんですが、数字が大きければ大きいほど針は細くなります。昔の採血なんかで使われていたのが21Gや23Gだとすると、私たちがワクチンで使うのは29G。
これ、どれくらい違うかというと、「太いストロー」と「髪の毛」くらい違います(ちょっと大げさかもしれませんが、感覚的にはそれくらい)。
想像してみてください。
コンクリートの壁に、太い杭を打ち込むのと、画鋲を刺すの。どっちが壁(皮膚)への抵抗が少ないか。
細い針は、皮膚の痛点(痛みを感じるセンサー)を避けて入る確率が高くなるんです。だから、「あれ?もう終わったの?」という感想をよくいただきます。
以前、あるお母さんが仰いました。「子どもが平気なのに、私が痛みに顔をしかめたら恥ずかしい」と。
そんなこと、気にしなくていいんです。痛みは主観的なものですし、その日の体調や心理状態で変わります。でも、私たちはその不安を、技術と道具で最小限に減らすことができます。
インフルエンザ予防接種の重要性:繭の戦略(コクーニング)
さて、ここから少し真面目な話。
なぜ、私がこれほど大人への接種をしつこく(失礼!)お勧めするかというと、これには繭(まゆ)の戦略という考え方があるからです。
英語ではCocooning(コクーニング)と言います。
生まれたばかりの赤ちゃんや、アレルギーなどでワクチンを打てない子どもたち。彼らは無防備です。
その周りにいるパパ、ママ、おじいちゃん、お婆ちゃんがワクチンを打って免疫の壁を作る。まるで繭のように子どもを包み込んで、ウイルスを家庭に入れない。これが、最強の防衛策なんです。
あなたが打つその一本は、あなた自身を守るだけでなく、あなたが愛する小さな命を守るための「盾」になるということ。
そう考えると、少しだけ勇気が湧いてきませんか?
もちろん、ワクチンは魔法の薬ではありません。打っても罹ることはあります。
でも、「重症化して一週間寝込み、家庭が回らなくなるリスク」と、「チクリとする一瞬(しかも極細針!)」を天秤にかければ、答えは明らかですよね。
「先生、私の分もお願いします。あの、一番細い針で」
そう言って、照れくさそうに腕まくりをするパパやママを見るのが、私は大好きです。
ユアクリニックお茶の水では、大人の「弱さ」も「不安」も、まるごと受け止めます。こっそり教えてくださいね、「実は怖いんです」って。私が責任を持って、とびきり優しく接種しますから。
そろそろインフルエンザが流行りだす時期です。
お子さんと一緒に、ぜひ無敵の繭を作りに来てください。
お待ちしています。
