赤ちゃんの頭のゆがみ、「様子見」で本当に大丈夫?後悔しないための正しい知識と選択
診察室で電子カルテに向かっていると、時折、背中越しに張り詰めた空気を感じることがあります。それは、赤ちゃんの健診に来られたお母さんが、最後に勇気を振り絞って質問を投げかけてくるときです。
「先生、うちの子の頭の形……これ、治りますか?」
その声は震えていることがあります。そして、多くの方がこう付け加えます。「健診で相談したら『様子を見ていれば治るよ』って言われたんですけど、全然良くならなくて。むしろ、ひどくなっている気がして……」
正直に言いますね。その不安、決して間違いではありません。そして何より、声を大にして伝えたいのは、「お母さん、あなたの寝かせ方が悪かったわけじゃないんですよ」ということです。
今日は、医学的な視点と、私が見てきた数多くの親子の物語を交えて、赤ちゃんの頭の形についてお話しします。
赤ちゃんの頭の形について知っておくべきこと
まず、専門用語をひとつだけ覚えましょう。「位置的頭蓋変形(いちてきとうがいへんけい)」。なんだか怖そうな名前ですが、簡単に言えば「寝ている姿勢によって頭の形が変わってしまうこと」です。
赤ちゃんの頭蓋骨は、大人のようにカチカチではありません。例えるなら、焼く前のパン生地のようなものです。柔らかくて、ふんわりしている。これは、狭い産道を通って生まれてくるため、そして生後急激に発達する脳みその成長に合わせて広がるために、神様がくれた柔軟性です。
でも、その柔らかさがゆえに、ずっと同じ方向を向いて寝ていると、その部分だけが平らになってしまう。これが頭のゆがみの正体です。
「様子見」で治る?赤ちゃんの頭のゆがみの自然治癒について
では、「様子見」で治るのか?
答えは、「治る子もいれば、そのまま残ってしまう子もいる」です。軽度であれば、お座りができるようになり、寝ている時間が減れば自然と目立たなくなることもあります。しかし、ある程度進んでしまったゆがみは、自然には戻りきらないことが多いのが現実です。
ヘルメット治療という選択肢
ここで、「ヘルメット治療」という選択肢が出てきます。
「ヘルメットなんて、赤ちゃんに可哀想……」そう思う方もいるかもしれません。私も最初はそう思っていました。でも、その仕組みを理解すると、イメージが変わるはずです。
これは、頭を無理やり締め付けるものではありません。
先ほどのパン生地の例えに戻りましょう。四角い型に入れれば四角いパンになりますが、丸い型に入れれば、膨らむ力で自然と綺麗な丸いパンになりますよね?
ヘルメット治療もこれと同じ。「ここまでは膨らんでいいよ」という理想のガイドライン(型)を作ってあげるだけなんです。赤ちゃんの脳が成長する力を利用して、自然に丸い形へと誘導してあげる。だから、痛くはないんですよ。
ヘルメット治療の成功事例
私が以前担当した、ある男の子の話をしましょう。
その子のお母さんは、ネットの情報に翻弄され、「私のせいで頭が歪んでしまった」と自分を責め続けていました。ドーナツ枕を何種類も買い、夜中も何度も起きて赤ちゃんの向きを変える。でも治らない。
私たちはじっくり話し合い、生後5ヶ月でヘルメット治療を始めました。
最初はヘルメット姿に違和感があったお母さんも、数ヶ月後、丸くなった息子さんの頭を見て、診察室で喜ばれました。「頭の形が綺麗になったことも嬉しいけれど、何より『もう悩まなくていいんだ』って思えたことで、育児が楽しくなりました」と。
ヘルメット治療のタイムリミット
この治療には「タイムリミット」があります。
頭の骨が柔らかく、脳が急激に成長している時期、つまり生後数ヶ月から1歳半くらいまでしか、この魔法は効きません。「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、「骨は柔らかいうちに治せ」なのです。
もちろん、全ての赤ちゃんにヘルメットが必要なわけではありません。でも、「様子見」と言われて不安なまま過ごす時間が、治療に適した貴重な時間を奪ってしまうことだけは避けたいんです。
赤ちゃんの頭の形でお悩みなら専門家にご相談ください
もし、お子さんの頭の形を見て、胸がざわざわするなら。
一人で抱え込まず、私たち専門家に相談してください。
それは「美容」の問題だけではありません。噛み合わせや、将来的な眼鏡のかけやすさなど、機能的な面でもメリットがあると言われています。
今のあなたの不安は、医学の力で「希望」に変えられます。
まずは、実際に治療を受けたお子さんたちの事例を見てみてください。きっと、「あ、うちの子も大丈夫かもしれない」と思えるはずですから。
大丈夫、一緒に考えていきましょう。
