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フォローアップミルクって、そもそも必要?不要?

[2025.07.17]

院長の杉原です。

今日は、赤ちゃんを育てているお父さん、お母さんからよくご質問いただく、「フォローアップミルクって、本当に必要ですか?」という疑問についてお話ししたいと思います。

インターネットやお店で色々な情報があふれていて、「飲ませた方がいいのかな?」「いつまで飲ませるべきなんだろう?」と悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。実は、フォローアップミルクについては、たくさんの情報がある一方で、少し混乱しやすいテーマでもあります。

今回は、小児科医として、エビデンス(科学的な根拠)に基づいた視点から、フォローアップミルクについて、そしてお子さんの健やかな成長のために本当に大切な栄養の考え方について、わかりやすくお伝えしますね。

 

フォローアップミルクって、そもそも何? 育児用ミルクや牛乳とどう違うの?

まず、フォローアップミルクがどんなものなのか、整理してみましょう。

フォローアップミルクは、主に生後9ヶ月から3歳頃までのお子さんを対象に、「離乳食だけでは不足しがちな栄養素を補う」ことを目的として作られています。

よく混同されがちなのが、育児用ミルクです。育児用ミルクは、生まれてすぐから1歳くらいまでの赤ちゃんのために、お母さんの母乳の代わりになるように作られたものです。母乳には、赤ちゃんに必要な栄養がバランス良く含まれています。育児用ミルクも、母乳をお手本にして、赤ちゃんが育つのに必要なタンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルなど、様々な成分が配合されています。

一方、フォローアップミルクは「離乳食を助けるもの」という位置づけで、育児用ミルクや母乳の代わりにはなりません。フォローアップミルクには、離乳食で足りなくなりやすいビタミンCDHA(ドコサヘキサエン酸:脳の発達に良いとされる脂肪酸)、カルシウムなどが多く含まれています。

では、牛乳はどうでしょうか? 牛乳は、一般的には1歳を過ぎてから飲み物として与えることが勧められています。牛乳には、タンパク質やカルシウムはたくさん含まれていますが、鉄分がほとんど含まれていません。また、フォローアップミルクや牛乳は、母乳や育児用ミルクと比べて、タンパク質やミネラルが多いのが特徴です。赤ちゃんの腎臓(じんぞう:体の中のいらないものを出す臓器)はまだ未熟なので、これらの成分が多すぎると負担になる可能性があるため、与える時期には注意が必要なんです。

簡単にまとめると、こんなイメージです。

  • 母乳・育児用ミルク:生まれてすぐの赤ちゃんにとって、メインの栄養源

  • フォローアップミルク:離乳食で足りない栄養を補うための補助食品

  • 牛乳:1歳を過ぎてから飲む、飲み物の一つ

次の表で、それぞれの主な栄養成分を比べてみましょう。


表1:母乳・育児用ミルク・フォローアップミルク・牛乳の主要栄養成分比較(100ml中)

成分 (100ml中) 母乳*1 育児用ミルク フォローアップミルク 牛乳
タンパク質 (g) 1.3 1.6 2.3 2.9
鉄 (mg) 0.1 0.8 1.0 0.1
ナトリウム (Na) (mg) 15 18 30 50
カリウム (K) (mg) 45 40 100 150
カルシウム (Ca) (mg) 30 45 80 100

*1:母乳の成分には個人差があります。

この表を見ると、フォローアップミルクの鉄分が牛乳よりも多いこと、そしてフォローアップミルクと牛乳のタンパク質やミネラルが、母乳や育児用ミルクよりもずっと多いことがわかりますね。このデータは、赤ちゃんの腎臓への負担を考える上で大切なことなんです。

 

世界の専門家たちは「フォローアップミルクは必要ない」と考えている?

では、世界中の小児科医や公衆衛生の専門家たちは、フォローアップミルクについてどう考えているのでしょうか?

実は、日本小児科学会や、世界保健機関(WHO)、アメリカ小児科学会(AAP)といった、世界中の主要な機関は、健康な赤ちゃんや子どもにとって、フォローアップミルクは「原則として必要ない」という意見で一致しています。

WHOは、フォローアップミルクを「育児用粉乳(赤ちゃんが飲む主食のミルク)」ではなく、「食品」として分類しています。つまり、メインの栄養源ではないですよ、という意味ですね。最近では、アメリカのガイドラインで、フォローアップミルクは甘い飲み物と同じように「推奨されない飲み物」に分類されるほどです。

これは、フォローアップミルクが「子どもの成長に欠かせないもの」として宣伝されることが多いのとは、ちょっと違う意見だと感じられるかもしれませんね。これは、できるだけ母乳育児を勧めたり、離乳食でバランスよく栄養を摂ることを大切にしたりする、という考え方が背景にあります。

 

でも、日本の厚生労働省や一部の小児科医は、もう少し柔軟な考え方をしている?

一方で、日本の厚生労働省のガイドラインや、私たち小児科医の中には、もう少し現実的な視点からフォローアップミルクを捉えている人もいます。

これらのガイドラインでは、「フォローアップミルクは、母乳や育児用ミルクの代わりではない」ことを強調しつつも、「必要に応じて」(例えば、離乳食があまり進まなくて、鉄分が足りなくなる心配がある場合など)であれば、9ヶ月以降に使うことは問題ないとしています。また、飲み物としてではなく、離乳食の調理に使うことも勧められています。

これは、「絶対に必要ない!」という強い否定ではなく、「基本的には必要ないけれど、状況によっては役に立つこともあるよ」という、より柔軟な考え方を示しています。親御さんが子育てで直面する色々な状況を考えると、完璧な栄養摂取がいつもできるわけではないですよね。だから、フォローアップミルクが、例えば鉄分のような特定の栄養不足を補う補助的な役割を果たしたり、料理に活用されたりする可能性がある、と認めているんです。

 

フォローアップミルクが「必要ない」と言われるのはなぜ? デメリットも知っておこう

では、世界の専門機関が「原則不要」と考えるのはなぜでしょうか? フォローアップミルクの不必要な使用が、お子さんの成長に影響を与える可能性があるためです。

1. 離乳食が進みにくくなるかも?

フォローアップミルクは、赤ちゃんが飲みやすいように、オリゴ糖などで甘い味がついていることが多いです。この甘みが、時として問題になることがあります。

甘い味に慣れてしまうと、赤ちゃんが離乳食よりもフォローアップミルクを好きになってしまい、固形食(おかゆや野菜、お肉など)を食べる量が減ってしまう可能性があります。これは、離乳食を通して、色々な食材の味や食感に慣れたり、食べ物をカミカミしたり、ゴックンしたりする大切な練習の機会を奪うことにもつながります。

甘い飲み物を好きになると、お水や麦茶のような甘くない飲み物を嫌がるようになることもあります。また、フォローアップミルクは満腹感(おなかいっぱいになった感じ)を与えやすいので、ご飯の前にたくさん飲んでしまうと、肝心の離乳食を十分に食べられなくなってしまうこともあります。

実は、「あまり食べてくれない」と相談に来るお子さんの中には、1日に何度もフォローアップミルクを飲んでいるケースが少なくないんですよ。

この「甘い味への慣れ」は、単に一時的に食欲がなくなるだけでなく、小さいうちから健康的な食習慣を身につける上で大きな影響を与える可能性があります。甘い味が好きになりすぎると、将来、肥満になったり、虫歯になったりするリスクも心配されます。

2. 栄養バランスが偏るリスクも

フォローアップミルクは、鉄やカルシウムなど特定の栄養素を増やしていますが、それだけで必要な栄養がすべて摂れるわけではありません。フォローアップミルクに頼りすぎると、かえって必要な栄養素が偏ってしまい、結果的に栄養バランスが崩れてしまうことがあります。

特に大切なのが、フォローアップミルクには亜鉛(あえん)銅(どう)がほとんど含まれていないことです。亜鉛は、皮膚や免疫(めんえき:病気から体を守る力)など、体の色々な機能に大切な栄養素です。特に早産(そうざん:予定日より早く生まれること)や低出生体重(ていしゅっしょうたいじゅう:小さく生まれること)で生まれた赤ちゃんは、亜鉛が不足しやすいので注意が必要です。亜鉛が足りないと、皮膚炎になったり、貧血になったり、成長が遅れたりすることもあります。

「このミルクを飲ませていれば大丈夫」という宣伝文句は、お父さんやお母さんに安心感を与えるかもしれませんが、それが多様な固形食から摂るべき他の大切な栄養素への注意をそらしてしまう危険性も指摘されています。

3. 体への負担、そして経済的な負担も

先ほども触れましたが、フォローアップミルクは、母乳や育児用ミルクと比べて、タンパク質やナトリウム(塩分)、カリウム、カルシウムなどのミネラルが多く含まれています。これらの成分を摂りすぎると、まだ発達途中の赤ちゃんの腎臓に負担をかける可能性があります。

また、フォローアップミルクを飲み始めたばかりの頃は、おなかが緩くなる(便がやわらかくなる)こともあります。もし下痢が続くようであれば、一度飲ませるのをやめてみることも必要です。

そして、経済的な負担も無視できません。フォローアップミルクは育児用ミルクより少し安い傾向があるとはいえ、健康な赤ちゃんにとって必ずしも必要ではないので、不必要な購入は、家計にとって避けられる出費となります。

 

では、どんな時にフォローアップミルクを検討する? 活用が「あり得る」ケース

多くの専門機関が「不要」と考える一方で、フォローアップミルクの活用が検討される特定の状況も存在します。これは、理想的な栄養摂取が難しい場合に、補助的な手段としてフォローアップミルクが役立つ可能性があるという、より実践的な視点です。

1. 離乳食の進みが不十分で、栄養不足が心配な場合

健康な赤ちゃんが離乳食をしっかり食べていて、母乳や育児用ミルクからも十分な栄養が摂れていて、体重も順調に増えているのであれば、フォローアップミルクを与える必要はありません。

しかし、離乳食の進み方がとても遅い、あるいはひどく偏食(好き嫌いが激しい)で、特に鉄分が足りていないと小児科医が判断した場合に限り、フォローアップミルクの活用が検討されることがあります。

生後9ヶ月頃になると、赤ちゃんがお母さんからもらった鉄分の貯蔵が減り始めるので、離乳食から鉄分を摂ることがとても大切になります。特に母乳だけで育っている赤ちゃんは、母乳中の鉄分は吸収されやすいとはいえ、絶対量が少ないため、離乳食からの鉄分補給が不十分だと、鉄欠乏(鉄分が足りない状態)になるリスクが高まります。このような時に、フォローアップミルクは鉄分やその吸収を助けるビタミンCが強化されているため、一時的に栄養の足りない部分を補う選択肢となりえます。

2. 育児用ミルクから切り替える時期に

育児用ミルクを使っているご家庭では、手持ちの育児用ミルクを使い切ったタイミングで、フォローアップミルクに切り替える、という方もいらっしゃいます。フォローアップミルクは育児用ミルクよりも価格が少し安い傾向があるので、経済的な理由でそうされることもあります。

3. 離乳食の調理に使う!賢い活用法

フォローアップミルクを飲み物として与えるのではなく、離乳食の調理に使う方法は、その栄養強化のメリットを活かしつつ、飲み物として与える際のデメリット(甘みによる偏食や、固形食を食べるのを邪魔してしまうこと)を避けることができる、とても賢い方法です。

例えば、おかゆやマッシュポテト、スープなどに少量混ぜることで、鉄分やカルシウム、ビタミンDなどの栄養素を手軽に補給できます。特に、哺乳瓶を嫌がってミルクを飲まない赤ちゃんや、離乳食で鉄分が不足しがちな場合に有効な手段です。牛乳アレルギーがない限りは、少量であれば9ヶ月よりも早い時期から、離乳食の食材として使う分には問題ない、とも考えられています。

この「調理素材としての活用」という考え方は、フォローアップミルクを「赤ちゃんの飲み物」としてではなく、「栄養をプラスするための食品」として捉え直すことを意味します。このアプローチは、固形食の栄養をより豊かにするという離乳食の目的に合っていて、製品の利点をうまく使いながら、一般的な落とし穴を避けることができる、実用的でおすすめの方法です。

 

大切なのは、専門家への相談!

どんな場合でも、フォローアップミルクを使うかどうかを検討する際は、必ずかかりつけの小児科医に相談してください。お子さんの成長のペース、離乳食の進み具合、全体的な健康状態、アレルギーの有無などを総合的に判断して、一人ひとりのお子さんに最適な栄養の摂り方を一緒に考えていくことが最も大切です。

 

フォローアップミルクに頼らない! 健やかな成長のための栄養戦略

フォローアップミルクが必須ではない、ということを踏まえて、お子さんの健やかな成長を促すための、もっとも基本的な栄養の考え方は、多様で栄養豊富な固形食(離乳食)を中心とした食生活を確立することにあります。

1. 栄養たっぷりの固形食(離乳食)を優先しよう

世界保健機関(WHO)が提唱する「補完食(ほかんしょく)」という考え方は、日本の「離乳食」とほとんど同じですが、最初からエネルギーと栄養が豊富な食品(特に鉄、亜鉛、ビタミンC、ビタミンA、カルシウム)を中心とすることを強調しています。

具体的には、スプーンから落ちないくらいの濃いペースト状のおかゆから始めて、ご飯だけでなく、栄養豊富な他の食材(例えば、大人用の味噌汁や煮物を味付けする前に取り分けてつぶすなど)も一緒に与えることをお勧めします。

生後6ヶ月以降、特に母乳だけで育っている赤ちゃんは、鉄分が不足しやすくなるので、鉄分を豊富に含む食品を積極的に離乳食に取り入れることが重要です。赤身の魚(ブリ、サバなど)、赤身の肉(牛肉など)、レバー、卵、大豆製品(豆腐、納豆)、貝類(アサリなど)、オートミールなどがおすすめです。離乳食は、生後9ヶ月頃からは1日3回にし、歯ぐきでつぶせるくらいの固さのものを目標に与えていきましょう。

この「食品優先」の栄養戦略は、フォローアップミルクが解決策として提示されがちな鉄欠乏などの栄養課題に対して、より根本的で予防的なアプローチを提供します。色々な種類の栄養たっぷりの離乳食を適切な時期から始めることで、赤ちゃんは必要な栄養素を自然な形で摂ることができ、補助的な製品に頼る必要が少なくなります。

2. 適切なミルクからの移行と水分補給

母乳は、WHOが少なくとも2歳までの継続を推奨する、理想的な栄養源です。母乳中の鉄分は量が少なく見えても、吸収される効率が非常に高いため、多くの場合、鉄欠乏にはなりません。育児用ミルクを使っている場合は、1歳までは育児用ミルクを続けることが望ましいとされています。

牛乳は、赤ちゃんの消化器官への負担やアレルギーのリスクを考えて、飲み物として与えるのは1歳を過ぎてからにしましょう。1歳を過ぎた場合の牛乳の量は、1日にコップ2~3杯くらい(400~600ml程度)が目安です。

水分補給としては、甘味のないお水や麦茶を優先することが重要です。甘い飲み物を与えすぎると、離乳食を食べるのを邪魔したり、虫歯になるリスクを高めたりする可能性があります。

牛乳を1歳以降に導入し、お水や甘味のない飲み物を主な水分源とすることは、赤ちゃんの栄養摂取における大切な成長段階の移行を示しています。この時期には、固形食がエネルギーと栄養摂取の中心となり、ミルクは補助的な役割に変わっていくのです。これは、小さいうちから健康的な水分補給の習慣を身につけ、将来の食生活の土台を築く上で欠かせないステップです。

3. 鉄不足が本当に心配な時は

もしお子さんの鉄不足が本当に心配される場合や、貧血の兆候が見られる場合は、フォローアップミルクに頼るよりも、かかりつけの小児科医に相談し、鉄剤(てつざい)の内服(鉄分のお薬を飲むこと)を検討することが、最も確実で効果的な方法です。医師の診断に基づいた適切な治療が大切です。

 

まとめ:お子さんの成長に合わせた最適な選択を

「フォローアップミルクは必要ですか?それとも必要ないですか?」というご質問に対して、国内外の主要な小児科や公衆衛生の専門機関は、健康で順調に成長している赤ちゃんにとっては、原則として「必要ない」という明確な見解を示しています。

フォローアップミルクは、甘みによって離乳食の進みを妨げたり、特定の栄養素(亜鉛、銅など)が不足したり、まだ未熟な腎臓に負担をかける可能性があるといったデメリットが指摘されています。特に、その甘さが固形食への移行を邪魔し、偏食につながるリスクは無視できません。

しかし、実際の育児では、離乳食の進みが思わしくない、特定の栄養素(特に鉄分)の摂取が不足していると医師が判断した場合など、限られた状況において、フォローアップミルクが補助的な役割を果たす可能性も存在します。特に、飲み物としてではなく、離乳食の調理に使うことは、その栄養強化のメリットを活かしつつ、デメリットを回避する有効な方法です。

お子さんの健やかな成長のために最も重要なのは、フォローアップミルクに頼りすぎることなく、多様で栄養豊富な固形食(離乳食)を中心とした食生活を確立することです。鉄分を豊富に含む食品を積極的に取り入れ、1歳を過ぎたら適切な量の牛乳に移行し、水分補給はお水や麦茶を基本としましょう。

最終的に、お子さん一人ひとりの成長、健康状態、離乳食の進み具合は異なります。そのため、フォローアップミルクの使用について迷いや不安がある場合は、必ずかかりつけの小児科医に相談し、個別に最適な栄養戦略についてアドバイスを受けることが何よりも重要です。一般的なガイドラインと、お子さんの具体的な状況を考慮した専門家のアドバイスを組み合わせることで、お父さんやお母さんは自信を持って、お子さんの成長に合わせた最善の選択をすることができます。

ユアクリニックお茶の水では、お子さんの栄養に関するご相談もいつでも受け付けています。お一人で悩まず、どうぞお気軽にご来院ください。

 

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