なぜ今年のインフルエンザは流行が早いの?変異株「サブクレードK」の正体と、子どもを守るワクチンの効果
こんにちは!ユアクリニックお茶の水院長の[院長名]です。
今年は本当にインフルエンザの立ち上がりが早いと感じていらっしゃいませんか?
「まだ11月なのに、こんなに流行するのは異例なのでは?」と不安に思われている保護者の方も多いでしょう。事実、私も診療していて、この異例の流行速度に驚いています。
感染症の報告書です。45週目というのは11/3-11/9ですから随分前のようにも感じますね。
グラフにされていない、エクセルの生データなら46週目の11/10-11/17まで公開されています。
インフルエンザは過去5年間の平均をおおきく上回る数字で増加が続いていることがわかります。
この早期流行の鍵を握っているのが、インフルエンザA型(H3N2)の新しい親戚、その名も「サブクレードK」と呼ばれる変異株です。専門的な話に聞こえるかもしれませんが、ご安心ください。この「サブクレードK」の正体と、私たちの大切な子どもたちへのワクチン効果について、最新の情報と、私自身の経験も交えながら、理論的かつわかりやすくお話しさせていただきますね。
インフルエンザの新たな脅威?サブクレードKとは
まず、「サブクレードK」とは何でしょうか?これは、インフルエンザA型というウイルスの一種(H3N2系統)が、ちょっとだけ「お色直し」をしたものだとイメージしてください。専門用語では「J.2.4.1系統」に属すると言われています。
例えるなら、毎年同じクラスに来ていたインフルエンザ君が、今年は新しい制服に着替えて登場したようなものです。この「新しい制服=変異」によって、私たちの体や、今のワクチンが「あれ?君は知っているはずなのに、ちょっと違うな?」と戸惑ってしまう状況が生まれているのです。
実際、南半球の流行が終わり、私たち北半球でシーズンが始まる頃から、この「新しい親戚」の発生率が急増しています。特にイギリスからの報告では、18歳以下の子どもたちで、このサブクレードKが異例の速さで広がっていることがわかっています。
サブクレードKが急速に広がる理由
では、なぜこの新しいインフルエンザ君は、これほどまでにスピード違反のように早く広がるのでしょうか。その秘密は、ウイルスの表面に隠されています。
インフルエンザウイルスは、表面に「トゲ」のようなタンパク質を持っています。これが、私たちがインフルエンザにかかったり、ワクチンを打ったりしたときに、私たちの体(免疫)が「敵だ!」と認識する目印になる部分です。
しかし、このサブクレードKは、この「トゲ」の形を器用に変えてきました。特に注目すべきは、ウイルスが自分自身の表面を「糖の鎖」でコーティングして“変装”してしまった点です。専門的にはこれを「グライカン・シールド(糖鎖の盾)」と呼びます。
これは、泥棒が自分に気づかれないように覆面をするようなものです。私たちが過去のインフルエンザで獲得した「抗体」(=ウイルスの攻撃部隊)は、過去のウイルスの形は覚えているのですが、この「変装」のせいで、「あれ、この覆面をしたやつは誰だ?」と敵だと認識しづらくなってしまうのです。
この「変装」による、免疫からの逃避能力の獲得を「抗原ドリフト」と呼びます。この変化が、今回の早期かつ急速な流行を引き起こしている最も大きな要因だと考えられています。いやはや、ウイルスというものは本当に賢く、生存戦略に長けているものだと、感心(そして少し警戒)してしまいますね。
サブクレードKの症状の特徴
「高熱と強い関節痛」。これが一般的なインフルエンザのイメージかもしれません。
しかし、私のクリニックで直近インフルエンザA型と診断された患者さんの症状(サブクレードKが多いと推定される)を見てみると、関節痛や体の痛みがわりと少ないことです。むしろ、鼻水や咳といった、いわゆる風邪のような症状が強く出る傾向が見られます。
もちろん、遺伝子解析をしないと「これがサブクレードKの症状だ!」とは断言できません。しかし、このデータからは、今年のインフルエンザは「ガツンとくる高熱と関節痛」というより、「風邪のような症状が重く長引く」パターンも多いのかもしれない、という推測ができます。お子さんがただの風邪と区別がつきにくい場合もあるので、流行期は特に注意が必要です。
そして、もう一つ。今年のインフルエンザにかかっている患者さんの平均年齢が、当院では例年よりかなり若いという印象です。これも海外の「若年層で感染が広がりやすい」という知見と似ており、最初は学校や職場といった若い世代から広がり、徐々に高齢者に波及していくという、新型コロナウイルスと同じようなパターンをたどる可能性があります。
サブクレードK流行下でのワクチン効果
一番ご心配されているのは、「今年のワクチンは効くの?」という点でしょう。研究室のデータでは、先ほどの「変装(抗原ドリフト)」のせいで、ワクチンの「型」とサブクレードKの「型」が、残念ながらぴったり一致しているとは言えない、という報告が出ています。
しかし、ここで希望を持っていただきたいデータがあります!
イギリスで発表された最新の研究(2025年11月)によると、実際に患者さんを対象にしたワクチンの有効率(VE:発熱などで病院を受診・入院することを防ぐ効果)は、以下のようになっています。
- 2歳〜17歳(子ども):なんと約72%〜75%!
- 18歳~64歳(大人):約30%〜40%
ご覧ください。たとえウイルスの型が少し違っても、子どもたちに対しては、ワクチンは非常に強力な防御効果を発揮していることがわかります。
これはまるで、鍵と鍵穴の関係に似ています。完璧な鍵(ぴったり合った型)ではないかもしれませんが、少し形が違っても、子どもたちの免疫システムという「ドア」は、その少し違う鍵でもしっかりと「重症化」という侵入を防いでくれているのです。
一方、大人の有効率が低めなのは、大人は過去に何度もインフルエンザにかかり、免疫の記憶が複雑化している(専門用語で「免疫のインプリンティング」と言います)ため、新しい変異株への反応が鈍くなりやすいことが理由の一つと考えられています。
結論として、「サブクレードK」の流行下でも、インフルエンザワクチンは、特に子どもたちにとって、重症化を防ぐための最強の防御手段の1つであり続ける、と私は確信しています。受験を控えているお子さんや、小さなお子さんがいるご家庭では、ぜひ接種をご検討くださいね。
院長からのメッセージ
私自身、このクリニックで多くの患者さんを診てきて、インフルエンザが重症化するつらさを知っています。特に、幼いお子さんやご高齢の方が、高熱で苦しむ姿を見るのは本当に胸が痛みます。
今年の流行は早いですが、正しい知識と、ワクチンという強力な味方を手に入れることで、過度に恐れる必要はありません。
大切なのは、基本的な感染対策です。
- 手洗い:帰宅時や食事前には、石鹸で丁寧に洗いましょう。
- 咳エチケット:咳やくしゃみが出るときは、マスクや袖で口を覆いましょう。
- 体調管理:十分な睡眠と栄養で、免疫力を高めましょう。
もし、高熱や咳などの症状が出た場合は、迷わずユアクリニックお茶の水にご相談ください。私たち専門家が、皆さんの不安に寄り添い、適切な診断と治療を提供させていただきます。
今年の冬も、皆様がご家族で笑顔で過ごせるよう、心から願っています。
