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熱に弱いビフィズス菌が粉ミルクに?小児科医が教える、調乳のギモンと安全なミルクの作り方

[2025.12.10]

最近、粉ミルクに関するニュースや新しい商品の情報を見聞きするたびに、私は「本当にこれで大丈夫かな?」と、つい立ち止まって考えてしまいます。特に、粉ミルクに「ビフィズス菌」が入っているという話を聞くと、「うん、待てよ?」と、ちょっと頭を抱えてしまうんです。保護者の方々の中にも、きっと同じような疑問を感じていらっしゃる方がいらっしゃるのではないでしょうか。

粉ミルクにビフィズス菌が入っていることへの疑問

皆さんご存知の通り、ビフィズス菌は、私たちのお腹(腸内)に住んでいる、とっても働き者の善玉菌の一つです。消化を助けたり、悪い菌が増えるのを抑えたり、赤ちゃんの健康を守る上で大切な役割を果たしています。

ところが、粉ミルクを調乳する際には、厚生労働省の指導で「70℃以上のお湯で溶かすこと」とされていますよね。これは、粉ミルクの中に稀に混入する可能性がある、サカザキ菌やサルモネラ菌といった、赤ちゃんにとって危険な菌たちを殺菌するためです(※1)。

ここで大きな矛盾が生じます。熱に弱いビフィズス菌は、70℃以上のお湯で調乳したら、どうなってしまうでしょうか?

答えは、残念ながらほとんど死滅してしまう可能性が高い、ということです。

「せっかく赤ちゃんのためにビフィズス菌を配合しているのに、熱で死んじゃうなら、なんのためにわざわざ入れているんだろう?」

もちろん、メーカーさんは様々な技術や工夫をされていると思いますが、現時点では「生きたまま腸に届ける」のはなかなか難しいのが現実です。

ビフィズス菌と熱の関係:砂漠のオアシスのたとえ話

ビフィズス菌を、喉がカラカラの旅人のために用意された「オアシスのお水」だとイメージしてみてください。サカザキ菌やサルモネラ菌は、そのお水を汚染する「毒」です。70℃のお湯は、その「毒」を確実に消し去るための「強力な消毒液」のようなもの。毒を消すのは最優先事項ですが、残念ながら、消毒液はオアシスのお水そのもの(ビフィズス菌)にもダメージを与えてしまう、というわけです。

結論:赤ちゃんの安全を守るための「熱湯消毒」が、善玉菌の「生存」より最優先なんです。

調乳における温度管理の重要性

調乳温度「70℃以上」の理由

では、なぜ「70℃以上」という中途半端な温度なのでしょうか?

これは、先ほど挙げたサカザキ菌やサルモネラ菌といった菌の増殖を抑え、安全に摂取できるレベルまで数を減らすために、科学的な根拠に基づいて定められた温度です。

さらに手ごわい菌:ボツリヌス菌

そして、世の中には、この70℃の熱湯でも簡単に死なない、さらに手ごわい菌も存在します。それがボツリヌス菌です(※2)。

ボツリヌス菌は、特定の環境下で芽胞(がほう)という、種のような非常に硬い殻に閉じこもった状態になります。この芽胞は熱に強く、70℃程度の加熱ではビクともしません。

なぜ1歳未満の赤ちゃんに「はちみつ」がダメなのか?

皆さんも、「1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えてはいけない」と聞いたことがあるでしょう。これは、はちみつに稀にこのボツリヌス菌の芽胞が混じっていることがあるからです。

大人の腸内には、すでにたくさんの菌が住んでいて(腸内細菌叢といいます)、芽胞が侵入してもすぐに退治してくれます。しかし、赤ちゃんの腸はまだ未熟で、防御力が低い。そのため、芽胞が腸内で発芽し、ボツリヌス毒素という非常に強力な毒素を出し、乳児ボツリヌス症という重篤な病気を引き起こす可能性があるのです。

腸内細菌叢とは:街のたとえで理解する

腸内細菌叢というのは、皆さんが住んでいる「街」のようなものです。大人の街は、警察官(善玉菌)がたくさんいて、外から来た悪い人(ボツリヌス菌の芽胞)が入ってきてもすぐに捕まえてくれます。でも、赤ちゃんの街はまだできたばかりで、警察官の数が少ない。だから、悪い人が入り込むと、あっという間に街全体が大変なことになってしまうんです。

ボツリヌス菌は、70℃のお湯でも死なないという事実を知ると、「じゃあ、どうしたら安全なの?」と不安になるかもしれませんね。ご安心ください。

粉ミルクには、基本的にボツリヌス菌の芽胞は含まれていません。私たちが気をつけるべきは、サカザキ菌やサルモネラ菌のリスクを確実にゼロにすること、そして1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えないこと、この二点に尽きます。

ユアクリニックお茶の水からのアドバイス:安全な調乳ステップ

粉ミルクの安全を守るために、保護者の方々が実践すべきことはとてもシンプルです。

  1. ステップ1:清潔な環境で調乳する
    手をきれいに洗い、調乳に使う哺乳瓶や器具は必ず消毒しておきましょう。
  2. ステップ2:必ず70℃以上のお湯で溶かす
    沸騰したお湯を少し冷まして、必ず70℃以上を保った状態で粉ミルクを溶かします。これで、サカザキ菌やサルモネラ菌を殺菌できます。
  3. ステップ3:人肌まで冷ます
    溶かした後は、流水に当てるなどして、すぐに人肌(約40℃)程度まで冷ましてから赤ちゃんに与えてください。熱すぎると、赤ちゃんの口の中を火傷させてしまいます。
  4. ステップ4:作り置きはしない
    作ったミルクは、2時間以内に飲ませきりましょう。時間が経つと、再び菌が増殖する危険性が出てきます。

時には脱線や余談: 最近の電気ケトルの中には、70℃で保温できる便利な機能がついたものもありますが、調乳の際は、必ず一度沸騰させたお湯を使うようにしてくださいね。水道水に含まれる塩素も飛んで、より安全になりますから。

新しい粉ミルクの商品が出ると、「もっと良いものを!」という気持ちになりますよね。でも、最も大切なのは、製品に記載された調乳方法を、安全のために正確に守ることです。

何かご不明な点や、不安なことがあれば、いつでもユアクリニックお茶の水にご相談ください。私たち小児科医は、皆さんの育児を全力でサポートします!

(※1)厚生労働省:乳児用調製粉乳の調乳方法に関するQ&A
(※2)厚生労働省:ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから

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