赤ちゃんの頭の「継ぎ目」はいつ閉じる?9ヶ月までの黄金ルールを解説
診察室で赤ちゃんの頭を撫でていると、パパやママからよくこんな声をいただきます。「先生、赤ちゃんの頭って、触るとボコボコしていたり、ペコペコ凹む場所があったりして、なんだか壊れちゃいそうで怖いんです」と。
その気持ち、痛いほどよくわかります。私も新米医師だった頃、新生児の頭のあまりの柔らかさに、触れる手が震えたのを覚えていますから。
でも、安心してください。その「柔らかさ」や「継ぎ目」こそが、赤ちゃんの脳が爆発的に成長するための、とても大切な「仕掛け」なのです。
今日は、少しマニアックですが、知っておくと子育ての景色が変わる「頭の骨の継ぎ目(縫合線)」のお話をしましょう。これを読めば、なぜ私たちが「頭の形の相談は早めに」とお伝えしているのか、その理由がストンと腑に落ちるはずです。
頭蓋骨は「動くパズル」のようなもの
大人の頭蓋骨は一つの硬いヘルメットのようですが、赤ちゃんの頭蓋骨は違います。いくつかの骨のパーツが組み合わさった「パズル」のような状態なんです。そして、そのパーツとパーツの間にある隙間を、専門用語で「縫合(ほうごう)」と呼びます。
この縫合部分は、ゴムのように伸縮性があります。脳が「大きくなりたい!」と内側から押すと、この縫合部分が伸びて、頭全体が大きくなる仕組みになっています。
しかし、この「伸びる力」には、実は「有効期限」と「旬」があるのです。
「9ヶ月」がひとつの分かれ道
赤ちゃんの頭の成長には、実は「勢い」の波があります。
特に重要なのが、「生後3ヶ月から9ヶ月」という時期です。
この間、頭のてっぺんを左右に走る「冠状縫合(かんじょうほうごう)」や、おでこから後頭部へ向かって中央を走る「矢状縫合(しじょうほうごう)」といった主要な継ぎ目が、最も活発に伸びます。まさに成長の「最大増加期」と言えるでしょう。
例えるなら、植物が春に一気に茎を伸ばすようなもの。この時期、赤ちゃんの頭は前や横に向かって、驚くべきスピードで成長スペースを広げようとしています。
ところが、9ヶ月を過ぎて1歳に近づくにつれて、この爆発的な成長スピードは一旦落ち着き、横ばい状態になってきます。つまり、「頭の形を変えやすいボーナスタイム」は、生後9ヶ月ごろまでにピークを迎えるということなんです。
成長のバトンタッチ:前から後ろへ
面白いことに、全ての継ぎ目が同時に広がるわけではありません。成長には「順番」があります。
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前半(〜6ヶ月頃):
まず、おでこや頭のてっぺん付近の継ぎ目が頑張ります。前頭葉の発達に合わせて、頭の前半分がググッと広がります。
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後半(6ヶ月〜12ヶ月頃):
次に、頭の後ろ側(後頭部)にある「ラムダ縫合」という継ぎ目が主役になります。ここでようやく、後頭部がしっかりと膨らみ、奥行きが出てくるのです。
そして、1歳半(18ヶ月)を迎える頃には、多くの継ぎ目がその役目を終え、骨同士がガッチリと組み合わさって、大人のような硬い頭へと完成していきます。この頃には、縫合部の成長はほぼ終了します。
「手遅れ」なんて言葉はありませんが…
私がこのお話をするのは、保護者の方を焦らせたいからではありません。ただ、「知らなくて時期を逃してしまった」という後悔をしてほしくないからです。
もし、お子さんの頭の歪みや絶壁が気になっていて、ヘルメット治療などの矯正を考えているなら、この「縫合が柔らかく、伸びようとしている時期(特に9ヶ月未満まで)」にアプローチするのが、最も理にかなっています。
コンクリートが固まる前に形を整えるのは簡単ですが、固まってからでは大変ですよね。それと同じイメージです。
もちろん、1歳を過ぎても頭は成長しますし、形が自然に目立たなくなることも多々あります。でも、医学的な介入の効果が一番高い「旬」があることも、事実なんです。
「うちの子、もうすぐ6ヶ月だけど大丈夫かな?」「この凹みは自然に治るのかな?」
そんな疑問が頭をよぎったら、ぜひ私たちに見せてください。ユアクリニックお茶の水では、お子さんの月齢と、この「骨の成長スケジュール」を照らし合わせながら、今できるベストな選択肢を一緒に考えます。
赤ちゃんの柔らかい頭は、可能性の塊です。その成長の物語を、ハッピーエンドにするお手伝いができれば嬉しいです。いつでも相談に来てくださいね。
