「麻しん（はしか）」という病気をご存知でしょうか？

麻しんは、とても感染力が強く、お子さんの命に関わることもある、大変重いVPD（ワクチンで防げる病気）の一つです。日本では、かつて多くの人がかかっていた病気ですが、予防接種のおかげで患者さんはぐっと減りました。しかし、世界ではまだ流行している地域もあり、日本でも、ワクチンを受けていない人が増えると、再び流行してしまう心配があるんです。

まるで、大きな嵐が近づいているのに傘を持たずに出かけるようなもの。麻しんという「嵐」からお子さんを守るには、ワクチンという「傘」が何よりも大切になります。

麻しんがどんな病気なのか、具体的にイメージしにくいかもしれませんね。そこで今日は、ユアクリニックお茶の水にやってきた、ある家族のお話を通して、麻しん予防の大切さをお伝えしたいと思います。

笑顔が消える？！～ユイちゃんと麻しんの影～

「先生、こんにちは。ユイの予防接種のことで相談があります。」

ある日の午後、ユアクリニックお茶の水の診察室に、小学校に入学する前の元気なユイちゃん（6歳）と、お母さんがやってきました。ユイちゃんは、目をキラキラさせて絵本を読んでいます。

「ユイちゃん、元気そうだね！今日はどうしたのかな？」と私が尋ねると、お母さんが少し心配そうな顔で話し始めました。

「ユイ、実は麻しんの2回目のワクチンをまだ受けていなくて…。最近、ニュースで麻しんのことが取り上げられているのを見て、急に心配になってしまって。」

「そうだったんですね。麻しんは、非常に大切なVPDの一つですから、心配になるお気持ち、よく分かりますよ。」

私は、麻しんがどんな病気なのか、ユイちゃんにも分かるように説明を始めました。

「ユイちゃん、麻しんっていうのはね、とっても悪いウイルス（目に見えないくらい小さな、病気を引き起こす悪いやつだよ）が体の中に入ってきちゃう病気なんだ。最初は、風邪みたいに熱が出たり、咳が出たりするんだけど、3日くらい経つと、体中に赤いポツポツ（発疹といって、皮膚に出てくるブツブツのことだよ）が出てくるんだよ。」

ユイちゃんは、うんうんと頷きながら聞いています。

「この赤いポツポツが出ている時は、熱も高くて、ご飯も食べられなくなったり、お水を飲むのも辛くなったりするんだ。そしてね、麻しんは、ただの風邪と違って、とっても重い病気になっちゃうことがあるんだよ。」

お母さんが不安そうな顔で尋ねました。「重い病気って…どんなものですか？」

「はい、麻しんは、肺炎（肺という呼吸をする大切な臓器が炎症を起こす病気）や脳炎（脳が炎症を起こす病気で、意識がなくなったり、手足が動きにくくなったり、最悪の場合は命に関わることもある、とても怖い病気です）といった合併症（病気にかかった時に、別の病気が一緒に起こってしまうこと）を引き起こすことがあります。特に怖いのが、SSPE（亜急性硬化性全脳炎：あきゅうせいこうかせいぜんのうえん）という病気です。これは、麻しんにかかってから何年も経ってから突然、脳に影響が出て、知的な障がいが残ったり、体をうまく動かせなくなったりする、非常に難しい病気なんです。現在の医学では、残念ながら根本的な治療法がないんです。」

ユイちゃんのお母さんは、話を聞いて顔色が変わりました。「そんな、恐ろしい病気が…。」

「そうなんです。昔は『麻しんは命定め（いのちさだめ）』と言われるくらい、かかってしまうと命を落とすことも少なくありませんでした。医学が進歩した今でも、決して油断はできない病気なんですよ。」

私は、予防接種の大切さを改めて伝えました。

「だからこそ、ワクチンで麻しんから身を守ることが何よりも大切なんです。麻しんのワクチンは、MRワクチンといって、麻しんと風しん（風しんも妊娠中に妊婦さんがかかると、赤ちゃんに障がいが出てしまう可能性のあるVPDです）の２つの病気を一緒に予防できる優れものです。定期接種として、1歳になったら1回目、小学校に入学する前に2回目を受けることになっています。」

ユイちゃんのお母さんは、少し落ち着いた様子で言いました。「ユイのクラスにも、まだ2回目を受けていない子がいるみたいで…。正直、まだいいかなと思ってしまっていました。」

「よく聞くお話です。しかし、ワクチン接種率が下がってしまうと、麻しんの流行はいつでも起こりうるんです。お子さんの周りのみんながワクチンを受けていると、まるで大きなバリア（目に見えない壁のことです）ができて、病気のウイルスが入り込みにくくなります。これを『集団免疫』といいます。集団免疫があれば、ワクチンを打てない小さなお子さんや病気で体が弱いお子さんも、間接的に守られることになるんです。」

ユイちゃんのお母さんは、真剣な表情で私の話を聞いていました。

「先生、ユイの2回目のワクチン、すぐに予約させてください。ユイの笑顔を守るために、私ができることをしたいです。」

ユイちゃんは、お母さんの言葉を聞いて、にっこり笑いました。

ユアクリニックお茶の水から、あなたへ

ユイちゃんのように、麻しんの予防接種について不安や疑問をお持ちの方は、少なくないと思います。しかし、麻しんは決して甘く見てはいけない病気です。お子さん自身のためだけでなく、周りの大切な人々を守るためにも、予防接種はとても重要です。

ユアクリニックお茶の水では、麻しんをはじめとする予防接種について、丁寧に説明し、お子さんが安心して受けられるようサポートしています。お子さんのアレルギーや漢方についても、お気軽にご相談ください。

予防接種は、お子さんの未来を守る、大切なプレゼントです。不安なことや疑問に思うことがあれば、いつでもご相談ください。私たち小児科医は、お子さんたちが元気にすくすく育つことを心から願っています。

お子さんの予防接種スケジュールについてご不明な点がありましたら、お気軽にユアクリニックお茶の水までご相談ください。