【赤ちゃんの頭の形】家族の心配を安心に。おじいちゃん、おばあちゃんも納得のヘルメット治療のお話
梅雨の気配を感じる季節となりましたね。暦の上では「芒種(ぼうしゅ)」を過ぎ、草木の成長が著しい頃。七十二候では「螳螂生ず(かまきりしょうず)」といって、カマキリの赤ちゃんが卵からかえる時期でもあります。小さな命が力強く活動を始める、そんな季節ですね。
今日の千代田区は、朝から雲が多めですが、日中は過ごしやすい陽気になりそうです。ただ、朝晩は少し肌寒いかもしれませんので、お出かけの際は一枚羽織るものがあると良いでしょう。
こんにちは、地域総合小児科医の杉原です。ユアクリニックお茶の水で、日々たくさんの子どもたちの成長を見守らせていただいています。最近、特にご相談が増えているのが、赤ちゃんの頭の形についてです。
「先生、うちの両親が、孫のヘルメット治療に反対していて…どうしたらいいでしょう?」
診察室のドアが開き、心配そうな顔で入ってきたのは、生後5ヶ月の陽葵(ひまり)ちゃんを抱っこした若いママ、さくらさん(仮名)でした。陽葵ちゃんは、右側の後頭部が少し平らになっている「位置的斜頭症(いちてきしゃとうしょう)」の可能性があると、さくらさんは感じていました。
位置的斜頭症(いちてきしゃとうしょう)ってなあに?
赤ちゃんの頭の骨は、大人のようにカチカチではなく、とっても柔らかいんです。パズルのピースのようにいくつかの骨が組み合わさっていて、これからどんどん大きくなる脳のために、しなやかに成長できるようになっています。でも、その柔らかさゆえに、いつも同じ方向ばかり向いて寝ていたりすると、マットレスや枕に当たっている部分が平らになってしまうことがあるんですね。これが「位置的斜頭症」です。多くの場合、病気というわけではなく、向き癖を直したり、うつ伏せで遊ぶ時間(タミータイムと言います)を増やしたりすることで、自然と丸くなっていくことも多いんですよ。
さくらさんは、陽葵ちゃんの頭の形が気になり始めてから、インターネットで情報を集め、ヘルメットで頭の形を矯正する治療法があることを知りました。そして、一度専門の先生に診てもらおうと、当クリニックを予約してくれたのです。
「実家の両親に相談したら、『そんなかわいそうなもの、赤ちゃんにつけさせるなんて!』『昔はそんなことしなくても、みんなちゃんと大きくなったじゃないの』って、ものすごく反対されてしまって…。でも、もしこのまま頭の形が歪んだままだったら、将来この子が何か言われたり、肩こりや頭痛の原因になったりしないか、心配で心配で…」
さくらさんの不安な気持ち、手に取るように伝わってきました。おじいちゃん、おばあちゃんが可愛いお孫さんを心配する気持ちも、とてもよく分かります。昔は確かに、ヘルメットで赤ちゃんの頭の形を治療するなんて、考えられなかったですものね。
私達小児科医も、1歳ごろまでには自然に治りますから、と言っていた時代もあったのです。
でも、医学は日々進歩しています。昔は「風邪をひいたらとにかく安静に!」と言われていたのが、今では「症状によっては、少し体を動かした方が回復が早いこともある」なんて言われるようになったり、予防接種の種類も昔に比べて格段に増えて、子どもたちをたくさんの病気から守れるようになったり。それと同じように、赤ちゃんの頭の形についても、新しい知識や治療法が出てきているんですよ。
「そうですよね…。でも、どうやって説明したら、分かってもらえるんでしょうか…」さくらさんは俯いてしまいました。
そこで私は、こう提案しました。 「さくらさん、もしよろしければ、次回の診察の際に、おじいちゃんとおばあちゃんもご一緒にいらっしゃいませんか? 私から、陽葵ちゃんの今の頭の状態と、ヘルメット治療について、そして何よりも、ご家族が安心して治療を選択するために知っておいていただきたいことについて、詳しくご説明させていただきますよ。」
数日後、さくらさんは、少し緊張した面持ちのおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にクリニックを訪れました。私はまず、陽葵ちゃんの頭を丁寧に診察し、専用の機器で頭の形を計測しました。
「陽葵ちゃんの頭の形ですが、確かに右側の後頭部が少し平らになっていますね。これは、先ほどお話しした『位置的斜頭症』と呼ばれる状態です。多くは、寝ている時の向き癖などが原因で起こります。陽葵ちゃんの場合、ゆがみの程度は中等度で、月齢を考えると、ヘルメット治療が良い選択肢の一つになる可能性があります。」
私は、赤ちゃんの頭の骨の模型や、たくさんのイラストが描かれたパンフレットを見せながら、ゆっくりと言葉を選んで説明を続けました。
「ヘルメット治療は、赤ちゃんの柔らかい頭の成長を利用して、平らになっている部分にはスペースを作り、出っ張っている部分には優しく圧力をかけることで、自然に丸い形に導く治療法です。決して、無理やり締め付けるものではありません。
例えるなら、植木鉢で育てる植物のガイドのようなもの、と考えていただけると分かりやすいかもしれません。まっすぐ綺麗に育ってほしい植物がありますよね。その植物の茎がまだ柔らかいうちに、成長してほしい方向へ優しく支え(ガイド)を添えてあげると、植物は自然と太陽の光を求めてそのガイドに沿って伸びていき、バランスの取れた形に育っていきます。ヘルメットもこれと似ていて、赤ちゃんの頭がこれから自然に大きくなろうとする力を利用して、平らな部分には『こっちに成長していいんだよ』とスペースを作り、理想的な丸い形にそっと導いてあげるお手伝いをするのです。無理に形を変えるのではなく、赤ちゃんの成長する力を正しい方向に優しく導いてあげるイメージですね。」
おじいちゃんは腕を組んで黙って聞いていましたが、おばあちゃんが心配そうに口を開きました。 「先生、そのヘルメットというのは、赤ちゃんにとって苦しかったり、暑かったりするものではないのですか?」
「良いご質問ですね。確かに、ヘルメットをつけ始める最初の数日は、赤ちゃんも少し戸惑うかもしれません。でも、最近のヘルメットはとても軽く作られていますし、中が蒸れないように通気性も工夫されているんですよ。もちろん、汗をたくさんかいたら、こまめに拭いてあげたり、ヘルメットを清潔に保つケアは大切です。でも、ほとんどの赤ちゃんは、数日もすればすっかり慣れて、普段通り元気に過ごせるようになります。そして何より大切なのは、治療をするかどうかは、最終的にご家族の皆さんが納得して決めること。私たちは、そのための正確な情報を提供し、皆さんの疑問や不安にしっかりお答えするのが役目だと思っています。」
そして、私はもう一つ、とても大切なことをお伝えしました。 「実は、赤ちゃんの頭のゆがみの中には、ごく稀にですが、『頭蓋縫合早期癒合症(とうがいほうごうそうきゆごうしょう)』という病気が隠れていることがあるんです。これは、頭の骨のつなぎ目が普通よりも早くくっついてしまって、脳の健やかな成長を妨げてしまう可能性のある病気です。もしこの病気だった場合は、専門的な検査や、場合によっては手術が必要になることもあります。ですから、まずは専門の医師がきちんと診察をして、そのような病的なゆがみではないか、ということをしっかりと見極めることが、何よりも大切なんです。ヘルメット治療を検討するのは、その安心が得られてから、ということになりますね。」
頭蓋縫合早期癒合症(とうがいほうごうそうきゆごうしょう)ってなあに?
赤ちゃんの頭の骨は、いくつかのパーツに分かれていて、そのつなぎ目を「縫合(ほうごう)」と言います。脳が大きくなるのに合わせて、この縫合部分も少しずつ広がって、頭全体がスムーズに成長できるようになっています。ところが、この縫合が生まれつき、あるいは生まれてすぐの頃に、普通よりも早くくっついて閉じてしまうことがあるんです。これが頭蓋縫合早期癒合症です。くっついてしまった場所によっては、頭が特徴的な形になったり、脳が大きくなろうとするのを邪魔してしまったりすることがあります。だから、もしこの病気が疑われる場合は、早めに専門の病院で詳しい検査を受けることが大切です。
私の話をじっくりと聞いてくださったおじいちゃんとおばあちゃん。診察が終わる頃には、最初クリニックに入ってこられた時の険しい表情はすっかり消え、穏やかな笑顔になっていました。 「先生のお話を伺って、よく分かりました。私たちの頃とは、医学もずいぶん進んでいるんですね。この子のために何が一番良いのか、もう一度、家族みんなでよく話し合ってみます」と、おじいちゃんが言ってくださいました。
後日、さくらさんから、「家族で話し合って、陽葵のヘルメット治療を始めることに決めました!」と明るい声で連絡がありました。最初は少しだけヘルメットに戸惑っていた陽葵ちゃんも、すぐに慣れてご機嫌で過ごしているそうです。そして、定期的な診察のたびに、少しずつ陽葵ちゃんの頭の形が丸く、きれいになっていくのを、さくらさんも、そしておじいちゃんもおばあちゃんも、本当に嬉しそうに見守っています。
「先生に相談して、本当によかったです。あのまま私たちだけで悩んでいたら、きっとお互いに気を遣ったまま、もっとこじれてしまっていたかもしれません。家族みんなが納得して、前向きな気持ちで陽葵のケアができるようになって、本当に安心しました」と、先日の診察でさくらさんが笑顔で話してくれた言葉が、私にとっても何よりの喜びでした。
赤ちゃんの頭の形について、もし少しでも気になること、心配なことがあれば、どうぞ一人で抱え込まずに、私たち専門家にご相談ください。ユアクリニックお茶の水では、それぞれの赤ちゃん、そしてご家族にとって何が一番良い方法なのかを一緒に考え、丁寧にサポートさせていただきます。
当クリニックの院長である私は、普段から予防医療に最も力を入れており、病気にならないための体づくり、そして病気を早期に発見し対応することの重要性をお伝えしています。その一環として、ワクチン接種などを通じて、子どもたちがさまざまな感染症から守られ、健やかに成長していけるよう願っています。また、小児アレルギーや小児漢方といった分野も得意としており、西洋医学と東洋医学の良いところを取り入れながら、お子さん一人ひとりの体質や症状に合わせた、きめ細やかな医療を提供することを心がけています。
この記事が、赤ちゃんの頭の形について悩んでいるご家族にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
