遅延型アレルギー検査って本当に必要?小児科医が教える「抗体」の正しい読み方
つい先日、クリニックの電話が鳴りました。受話器の向こうから聞こえてきたのは、小さなお子さんを持つお母さんからの切実な声でした。「先生、そちらで遅延型アレルギーの検査はできますか?ネットで見て、うちの子の不調の原因はこれじゃないかと思って…」
私は一瞬、言葉に詰まってしまいました。そして、心を鬼にして…いや、心を込めてこうお伝えしたんです。「お母さん、その検査は当院ではやっていませんし、おすすめもできないんです」と。
今日は、なぜ私がこの検査を「おすすめしない」のか、その理由をみなさんとシェアしたいと思います。正直なところ、この話をするのは少し勇気がいります。なぜなら、世の中にはこの検査を推奨しているクリニックも存在するからです。でも、ユアクリニックお茶の水の院長として、そして何より子どもたちの未来を守る小児科医として、正しい医学的知見をお伝えしなければなりません。
遅延型アレルギー検査をおすすめしない理由
まず、アレルギーには大きく分けて二つの主役がいます。一つはIgE(アイジーイー)抗体、もう一つが今回のテーマであるIgG(アイジージー)抗体です。名前は似ていますが、性格はまるで正反対の兄弟みたいなものなんです。
IgE抗体とIgG抗体の違い
私たちが普段、病院で診断する食物アレルギーに関わっているのは、兄貴分のIgEの方です。彼は短気で、敵(アレルゲン)が入ってくるとすぐに「攻撃開始!」と騒ぎ立てます。これが、食べてすぐにじんましんが出たり、ゼーゼーしたりする即時型アレルギーです。
一方で、弟分のIgG。今回の遅延型アレルギー検査で測っているのはこのIgGなんですが、実は彼、とても寛容な性格なんです。
IgG抗体は食べた物の記録
ちょっと想像してみてください。 IgEは、不審者が来たらすぐに噛みつく「番犬」です。 対してIgGは、家に来たお客さんを記録する「来客名簿」や「アルバム」のようなものです。
私たちが食べ物を食べると、体はその成分を異物として認識しつつも、「これは栄養だから大丈夫だよ」と受け入れる仕組みを持っています。これを免疫寛容と呼ぶのですが、このときIgG抗体が作られます。つまり、IgG抗体がたくさんあるということは、「この食べ物はアレルギーの原因だ!」ということではなく、「この食べ物を最近たくさん食べましたね、よく知っていますよ」という、ただの「食べた記録」に過ぎないことが多いのです。
びっくりしちゃいますよね。高いお金を払って検査をして、「小麦」や「卵」に強い反応が出たとしても、それは単に「パンや卵が好きでよく食べている」という証明書をもらっただけの可能性が高いのですから。
専門家も警鐘を鳴らすIgG抗体検査
実際に、日本アレルギー学会や日本小児アレルギー学会といった専門家の集まりも、はっきりと警鐘を鳴らしています。「IgG抗体検査は、食物アレルギーの原因診断には役立たない」と。公式に否定されているんです。
遅延型アレルギー検査が広まっている理由
それなのに、なぜこの検査が広まっているのでしょうか。 それは、結果がなんとなく「それっぽく」見えてしまうからです。グラフや数値で「あなたはこれに反応しています!」と示されると、原因不明の頭痛やだるさがそのせいに思えてくる。人間、理由がわからない不調よりも、理由(たとえ間違っていても)があったほうが安心してしまう生き物なんですね。
誤った食事制限のリスク
私が一番心配しているのは、お金が無駄になることではありません。いや、それも痛いですが、もっと怖いのは誤った食事制限です。
検査結果を信じて、「卵もダメ、牛乳もダメ、小麦もダメ」と、成長期の大切な時期にあれもこれも食べさせないようになってしまったらどうなるでしょう?子どもたちの体は、毎日食べたものから作られています。必要な栄養が偏り、心身の成長に悪影響が出てしまうことこそが、本当の健康被害なんです。
本当に必要な検査とは
もちろん、食べた後に必ずお腹が痛くなる、湿疹が出る、といった症状がある場合は、ちゃんとした検査が必要です。でもそれは、IgGではなく、通常の保険診療でできる検査や、実際に少し食べて様子を見る食物経口負荷試験で判断すべきことです。
ユアクリニックお茶の水ができること
「じゃあ、この不調は何なの?」という不安、痛いほどわかります。子育ては正解のない迷路のようで、藁にもすがる思いになることもありますよね。でも、そんな時こそ、怪しい「近道」ではなく、私たち専門家を頼ってください。
ユアクリニックお茶の水では、データの数値だけに頼るのではなく、お子さんの肌の色、お腹の音、そしてご家族のお話にじっくり耳を傾けることを大切にしています。流行りの検査に飛びつく前に、まずは診察室でゆっくりお話ししませんか?
基本は「食べて、寝て、笑う」こと
医学は日々進歩していますが、基本にあるのは「食べて、寝て、笑う」ことの健やかさです。間違った情報に振り回されず、美味しいものを「美味しいね」と笑って食べられる毎日を、一緒に守っていきましょう。
もし、この記事を読んで「あれ、うちも気になってた」と思ったら、いつでも相談してくださいね。正しい知識というワクチンで、不安のアレルギーも予防しましょう!
