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赤ちゃんと海外旅行!パスポートの次に大事な「見えないお守り」の話

[2025.12.01]

最近、診察室でこんな相談を受けることが増えました。「先生、今度6ヶ月の娘を連れてハワイに行こうと思うんです!」「久しぶりの海外、息子と一緒で楽しみだけど、ちょっと心配で...」

わかります、その気持ち。私も実は旅行が大好きでして、卒業旅行はバックパック一つでオーストラリアを縦断旅行したこともあります。でも、いざ自分の子供を連れて行くとなると、話は別。「飛行機で泣かないかな?」とか「オムツは現地で買えるの?」とか、心配事は尽きませんよね。

でもね、ちょっと待ってください。 オムツや離乳食の準備も大事ですが、目に見えないもっと大事な準備、忘れていませんか?

そう、ワクチンです。

今日は、小児科医として、そして一人の旅好きとして、赤ちゃんと海外に行く前に絶対に知っておいてほしい「理論的なリスク管理」のお話をします。少しだけ耳の痛い話もあるかもしれませんが、最後には安心して出発できるような、そんなお守り代わりのお話にしたいと思います。

海外旅行と子どもの健康:知っておくべきリスク管理

まず、皆さんに質問です。 日本という国を一言で表すと、衛生面ではどうでしょうか?

正解は「スーパーウルトラ・クリーン・カプセル」です。 私たちは普段、非常に衛生的な環境で守られています。水道水が飲めて、どこに行っても清潔なトイレがある。これは素晴らしいことなんですが、裏を返せば、私たちの体(特に赤ちゃんの体)は、海外の「野生のウイルスや細菌」に対して、ちょっと無防備な状態にあるとも言えます。

ここで少し、真面目なデータのお話をしましょう。厚生労働省検疫所(FORTH)やWHO(世界保健機関)の報告を見ると、世界では日本で流行していない感染症が、当たり前のように流行しています。

海外で注意すべき感染症

例えば「麻疹(はしか)」。 これ、昔の病気だと思っていませんか?とんでもない。 実はヨーロッパや東南アジアの一部では、依然として流行を繰り返しています。麻疹の感染力はすさまじく、インフルエンザの比ではありません。免疫を持っていない人が感染者と同じ部屋にいたら、ほぼ100%感染すると言われています。まさに空気感染の王者です。

通常、日本の定期接種では、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)は1歳になってから打ちますよね。 でも、0歳の赤ちゃんを連れて海外に行く場合、この「1歳ルール」を頑なに守っていると、丸腰で戦場に行くようなことになりかねません。

「えっ、じゃあどうすればいいの?」って思いますよね。

渡航前ワクチンの検討

実は、自費診療にはなりますが、生後6ヶ月から麻疹のワクチンを接種することは医学的に可能です。これを「渡航前ワクチン」と呼んだりします。 もちろん、1歳未満で打った場合、免疫のつき方が少し弱いこともあるので、1歳になったら再度打ち直す必要がありますが、旅行中のリスクを下げるための「期間限定の防弾チョッキ」を着せてあげるイメージですね。

他にも、開発途上国に行くならA型肝炎、長期滞在なら狂犬病など、行き先によって必要な「装備」は変わります。

これを私は「免疫のカスタムメイド」と呼んでいます。 旅行の計画を立てるとき、ガイドブックを見ますよね?「この店に行こう」「この景色を見よう」と。それと同じで、「この国に行くなら、このワクチンが必要だ」という計画も、旅程表の中に組み込んでほしいのです。

ワクチンは、病気を防ぐだけじゃない。「安心」という精神的な土台を作ってくれるんです。

ワクチンの重要性:安心という土台

旅行先で、赤ちゃんがいつもと違う様子を見せたとき。 「もしかして変な病気にかかったんじゃ...」とパニックになるのと、「やるべき予防は全部やった。まずは様子を見よう」と思えるのとでは、旅の質が天と地ほど変わります。

さて、専門的な話を少し日常的な言葉に置き換えてみましょう。 ワクチン接種は、スマートフォンの「OSアップデート」や、セキュリティソフトのインストールに似ています。 ウイルスという「バグ」や「ハッカー」から、大切なお子さんのシステムを守るための最新パッチを当てる作業です。日本国内という閉じられたネットワークなら古いOSでもなんとかなるかもしれませんが、海外というオープンなインターネットに接続するなら、セキュリティは最新にしておくべきですよね?

具体的なアクションプラン

では、どう動けばいいか。具体的なアクションプランをお伝えします。

  1. ステップ1:母子手帳を開く
    まずは今までの接種履歴を確認してください。
  2. ステップ2:渡航先と期間を確認する
    リゾートホテルに籠るのか、現地の市場を歩くのかでもリスクは違います。
  3. ステップ3:出発の2ヶ月前には受診する
    これ、テストに出ますよ!ワクチンによっては、数週間あけて2回打たないと効果が出ないものがあります。「明日出発なんです!」と言われても、残念ながらできることは限られてしまいます。余裕を持って、できれば旅行の計画段階で相談に来てください。

「ユアクリニックお茶の水」では、お子さんの月齢、渡航先、滞在期間に合わせて、オーダーメイドのワクチン計画をご提案しています。

旅行は家族の絆を深める素晴らしい機会

旅行は、家族の絆を深める素晴らしいイベントです。 異文化に触れ、見たことのない景色を見ることは、赤ちゃんの脳にとっても強烈で良い刺激になるでしょう。 だからこそ、私は「危ないから行くな」とは言いません。「準備をして、思いっきり楽しんできてください」と言いたいのです。

パスポートとお金、そして母子手帳。 この3つが揃えば、世界中どこへ行っても、そこは家族にとっての安全地帯になります。

最後に一つだけ。 診察室で「荷造り大変ですよね、私も子供のオムツを圧縮袋に詰めるのに必死でしたよ」なんていう、ちょっとした失敗談も交えながらお話しできればと思っています。

不安なことがあれば、なんでも聞いてくださいね。私たちは、皆さんの旅の「医療コンシェルジュ」なんですから。

さあ、準備万端で、いってらっしゃい!

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