吐き気を和らげるお薬のひみつ:メトクロプラミドとドンペリドンの違いをユアクリニックお茶の水院長が解説します!
こんにちは!ユアクリニックお茶の水の杉原 桂です。
最近、急増するインフルエンザのうらがわで、嘔吐下痢症を発症しているお子さんも少なくありません。
お子さんが「気持ち悪い」「吐きそう」と訴えると、保護者の方は本当に心配になりますよね。そんな時によく使うお薬に、「吐き気止め」があります。特に有名なのがメトクロプラミド(商品名:プリンペランなど)とドンペリドン(商品名:ナウゼリンなど)です。
「どちらも吐き気止めなのに、どう違うの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。実はこの二つのお薬、効き方も得意なことも少しずつ違うんです。
💡 そもそも「吐き気」ってどうして起こるの?
まず、吐き気のメカニズムを簡単に知っておきましょう。
吐き気や嘔吐は、脳にある「嘔吐中枢(おうとちゅうすう)」という場所が刺激されることで起こります。この嘔吐中枢は、体にとって「異物や有害なものを外に出せ!」と命令を出す、いわば司令塔のようなものです。
刺激が来るルートは主に二つあります。
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胃や腸からの直接ルート: 胃腸炎などで胃や腸が荒れると、「何かおかしいぞ!」という信号が脳に直接送られます。
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脳の監視センターからのルート: 脳には「化学受容器引き金帯(CTZ)」という場所があり、血液中の有害物質(お薬の副作用や体内でできた毒素など)を常にチェックしています。この監視センターが異常を察知すると、嘔吐中枢に「緊急事態だ!」と連絡するんです。
メトクロプラミドとドンペリドンは、この嘔吐中枢や信号の伝達をブロックすることで、吐き気を和らげてくれるんですよ。
🚗 メトクロプラミドとドンペリドン、効果と得意分野の違い
さて、本題の二つのお薬の違いです。この違いは、例えるなら「働く場所」と「得意なこと」の違いなんです。
1. ドンペリドン(ナウゼリンなど): 胃の動きを助ける「お腹の応援団長」
| 特徴 | 説明 | 例え話 |
| 主な作用場所 | 胃や腸の壁にある神経、一部は脳の嘔吐中枢にも作用。 | 主に消化管(お腹)で働きます。 |
| 得意なこと | 胃や腸の動き(ぜん動運動)を活発にして、食べ物の流れを良くする作用が強い。 | 消化不良や胃もたれ、食欲不振に伴う吐き気に特に効果的。胃の中に溜まったものを押し出してあげるイメージです。 |
| 脳への影響 | 脳の関所(血液脳関門)をほとんど通過しないため、脳への作用はマイルド。 | 副作用として出やすい錐体外路症状(手の震えやこわばりなど)は、メトクロプラミドに比べて比較的少ないとされています。 |
2. メトクロプラミド(プリンペランなど): 脳と胃腸の両方で働く「オールラウンダー」
| 特徴 | 説明 | 例え話 |
| 主な作用場所 | 脳の嘔吐中枢と化学受容器引き金帯(CTZ)、そして胃腸の神経の両方に強く作用。 | 脳と消化管の両方で働きます。 |
| 得意なこと | 脳の監視センター(CTZ)をしっかりブロックする作用が強い。 | 薬の副作用や、病気(片頭痛など)で脳が刺激されて起こる中枢性の強い吐き気に特に効果的。もちろん、胃腸の動きも良くしてくれます。 |
| 脳への影響 | 脳の関所を通過するため、脳の嘔吐中枢への作用が強い。 | 強い吐き気に対して効果が高い反面、小児や高齢者では錐体外路症状(体がこわばったり、ムズムズしたりする症状)などの副作用が出やすい傾向があります。 |
イメージとしては、
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ドンペリドン:「胃腸の動きが悪いから吐き気がする!」というタイプに、胃を動かすことをメインで手伝ってくれる優しいお薬。
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メトクロプラミド:「脳の司令塔が興奮しすぎている!」というタイプの強い吐き気を鎮めるのが得意な、パワフルなお薬。
と覚えていただくと分かりやすいかもしれません。
🏥 私の経験談:教授から教わった「使い分けの哲学」
消化器内科の先輩が、こんな話をしてくれたことがあります。
「いいか、目の前の患者さんの『吐き気の原因』が、胃腸の機能低下(動きが悪いこと)にあるのか、それとも薬や病気で『脳の監視センター』が過剰に反応しているのか。それを突き詰めて考えるのが、名医とそうでない医者の差だ。」
先輩は、手術後の「麻酔の副作用による吐き気」や「抗がん剤治療中の吐き気」など、脳の監視センター(CTZ)が原因となる強い吐き気には、迷わずメトクロプラミドを使い、一方で、慢性的な胃もたれや食欲不振による吐き気には、ドンペリドンをよく使われていました。
私は、「吐き気止めは、ただ吐き気を止めるだけでなく、症状の原因に合わせて、胃腸を動かす手伝いもするんだな」と、使い分けの奥深さを学びました。
💡 保護者の方へ:ユアクリニックお茶の水からのアドバイス
当院では、お子さんの症状や、吐き気の原因によって、この二つのお薬をしっかりと使い分けています。
1. 吐き気の強さと原因を教えてください
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お子さんがどんな時に吐き気を訴えるか?(ご飯の後すぐか、空腹時か、頭痛を伴うかなど)
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元気はあるか?
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どのくらい続いているか?
細かな情報が、私たちがお薬を選ぶヒントになります。
2. ドンペリドンは坐薬もあります
ドンペリドンは、錠剤やシロップの他に、坐薬(ざやく)のタイプもあります。お子さんが吐き気が強くて、飲み薬を飲んだ直後に吐いてしまうような場合でも、坐薬なら確実に吸収させることができるので安心です。
3. 不安なことは何でも聞いてくださいね
吐き気止めは、原因に対する対症療法(症状を和らげる治療)です。一番大切なのは、吐き気の原因となっている病気をしっかりと治すこと。ご不安な点があれば、いつでもお気軽に私たちにご相談ください。
お子さんの笑顔を、一日でも早く取り戻せるよう、私たちユアクリニックお茶の水は、しっかりとサポートさせていただきます!
