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風邪に「とりあえず葛根湯」は卒業?大人も子供も、体質で選ぶ漢方の正解ルート

[2025.12.05]

神田川を渡る風がいっそう冷たく感じる季節になりましたね。当クリニックのあるお茶の水界隈も、コートの襟を立てて足早に歩くビジネスマンや、マフラーに顔をうずめる学生さんの姿が目立ちます。

さて、今日は診察室で老若男女問わずよく聞かれる、漢方薬のお話をしましょう。

「先生、家の救急箱にあった葛根湯を飲んだんだけど、なんだか効かなくて……」

こんな声をよく耳にします。実家の冷蔵庫やオフィスの引き出しに、とりあえず葛根湯を常備している方、多いのではないでしょうか。でも実は、漢方の世界には「その人の今の体力」と「風邪のステージ」によって、使うべき薬がまるで違うというルールがあるんです。

これは何も子どもに限った話ではありません。働き盛りの大人も、少し体力が落ちてきたご高齢の方も同じ。今日は、あなたやご家族にぴったりの「戦うための地図」の見方を、こっそりお教えします。

風邪の漢方薬選び:体力とステージで変わる選び方

その1:あなたのバッテリー残量はどれくらい?

まず一番大事なのが、その人の体力(HP)です。漢方ではこれを(しょう)と呼びますが、私はよくスマホのバッテリーに例えて説明します。

  • 1つ目は、大容量バッテリー満タンのガッチリ・体力ありタイプ。
  • 部活帰りの中高生や、普段から体力自慢のスポーツマンタイプの方ですね。熱が出ても顔が赤く、脈も力強い。
  • こういう方がインフルエンザのような高熱を出した時は、麻黄湯(マオウトウ)という強力なアクセル全開の薬を使います。汗を一気にかかせて、ウイルスごと熱を体外へ追い出す、いわば短期決戦型の特攻隊長です。
  • 2つ目は、標準的なふつうタイプ。
  • 多くの大人はここに含まれます。
  • そして3つ目が、小さなバッテリーしかない体力低下(虚弱)タイプ。
  • これはご高齢の方や、日々の激務でお疲れのビジネスマン、冷え性で華奢な女性などが当てはまります。

ここで注意が必要なのが、この「体力低下タイプ」の方に、先ほどの特攻隊長(麻黄湯)や、有名な葛根湯を使う場面です。

「風邪かな?」と思って葛根湯を飲んだのに、かえって汗をかきすぎてグッタリしてしまった……なんて経験はありませんか?それは、戦うエネルギーが不足している体に、ムチを打ってしまったからかもしれません。

そんな時に頼りになるのが、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)という漢方です。

名前は難しいですが、イメージは「優しい魔法使い」。冷え切った体を内側からポカポカと温め、足りないエネルギーを補いながらウイルスと戦ってくれます。特に「熱はそれほど高くないけど、寒気が強くてダルい」というご高齢の方や虚弱タイプの方には、葛根湯よりもこちらが正解ルートになることが多いのです。

その2:今は試合開始直後?それとも延長戦

次に見極めるのはタイミングです。

  • 急性期は、風邪のひき始め。「あれ?背中がゾクッとしたな」という瞬間。
  • ここで体力がある〜ふつう程度の方なら、王道の葛根湯(カッコントウ)がベストプレーヤーです。体を温めて、初期消火で終わらせます。

しかし、こじらせてしまった遷延期(せんえんき)。

熱は下がったのに、咳だけがいつまでもコンコン残る。会議中や電車の中で咳が止まらなくて困る、という大人の方、結構いらっしゃいますよね。

そんな時は麦門冬湯(バクモンドウトウ)の出番です。乾いた喉や気管支を潤してくれる、まさに「恵みの雨」のような薬です。

また、風邪は治ったはずなのに、「なんだかやる気が出ない」「食欲が戻らない」というビジネスマンやご高齢の方には、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)をお出しすることがあります。これは弱った胃腸の働きを高めて、全身の活力を底上げしてくれる、いわば「急速充電器」のような存在です。

漢方薬の注意点:優しいけど無害じゃない

最後に、とても大切なお話をひとつ。

「漢方は草根木皮(そうこんもくひ)だから、副作用がなくて安心」

そう信じている方がいらっしゃいますが、これは半分正解で半分間違い。

漢方にも、体に合わなければ副作用が出ることがあります。

例えば、多くの漢方に含まれる甘草(カンゾウ)。これを摂りすぎると、血圧が上がったり、体がむくんだりする偽アルドステロン症という症状が出ることがあります。もともと高血圧の薬を飲んでいるご高齢の方などは、特に注意が必要です。

また、麻黄(マオウ)は交感神経を刺激するので、心臓がドキドキしたり、夜眠れなくなったりすることも。前立腺肥大のある男性なども注意が必要です。

だからこそ、自己判断は禁物。「たかが風邪薬」と思わずに、私たち専門家を頼ってください。

まとめ:風邪の漢方薬は体質に合わせて

風邪は、誰にとっても身近なトラブルです。でも、その治し方は年齢や体質、ライフスタイルによって千差万別。

「おじいちゃんは体力が落ちてるから、こっちの薬だね」

「パパは咳が長引いてるから、潤す薬がいいかも」

そんなふうに、ご家庭で少しだけ「漢方の地図」を広げてみてください。もちろん、迷ったときはいつでも「ユアクリニックお茶の水」へ。

お子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまで。家族みんなが笑顔で過ごせるよう、それぞれの体質に合わせたオーダーメイドの作戦を一緒に立てましょう。

温かいお茶でも飲んで、今日も無理せずお過ごしくださいね。

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