「え、そうなの!?」熱中症対策、常識が変わる!?知って安心!新しい身体の冷やし方
梅雨が明け、本格的な夏がやってきましたね。今年の夏も暑くなる予報が出ています。
小児科医の杉原です。
先日、大人の熱中症の人が駆け込みで受診しました。日々診察している中で、私は「予防」の大切さを痛感しています。病気になってから治療するのではなく、病気にならないように、健康に過ごせるようにサポートすること。これこそが、私の一番の願いであり、使命だと考えています。そして、この「予防」という視点から、今回は夏の脅威である「熱中症」 について、皆さんに新しい情報をお届けしたいと思います。
「汗をかけば大丈夫」は本当?熱中症のサインを見逃さないで!
「喉が渇く前に水分補給!」「汗をかくから水をこまめにとって!」
ラジオやテレビで、夏になるとこれらの言葉を耳にしない日はないですよね。もちろん、水分補給は熱中症予防の基本中の基本です。でも、実は「汗をかく」ことによる体温を下げる効果には、限界があるんです。
想像してみてください。(これはフィクションです)
小学3年生の元気いっぱいの男の子、湊(みなと)くんは、夏休みに入って毎日公園でサッカーに夢中でした。ある日、いつものように汗だくになってサッカーを終え、家に帰ってきました。ママが「たくさん汗かいたね!お水飲んで休みなさい」と声をかけると、湊くんは「うん!」と元気よく返事をしたものの、なんだか顔が赤くて、ぼーっとしているように見えます。いつもなら、お風呂に入ってご飯を食べて、すぐに宿題に取り掛かるのに、その日はソファに座り込んだまま、ぐったりとしてしまいました。
「あれ?湊、どうしたの?気分悪いの?」
ママが心配して額に手を当てると、じんわりと熱い。慌てて体温を測ると、なんと38.5度!
「え、熱中症!?」
ママは急いでクーラーをつけて、湊くんのTシャツをめくり、首と脇の下、そして股の付け根( 鼠径部(そけいぶ) といって、太い血管が通っている場所ですね)に冷たいタオルを当てました。しかし、湊くんはぐったりしたままで、なかなか熱が下がりません。
この時のママの行動は、これまで多くの場所で推奨されてきた「体を冷やす方法」です。しかし、実はこの「太い血管を冷やす」という方法、皆さんが思っている以上に、服の上からでは効果が薄い場合があるんです。脇の下や鼠径部を冷やすには、服を脱がせる必要があり、特に外出先などでは難しい場面もありますよね。
「ホンマでっか!?」新しい熱中症の冷却法
私も以前は、同じように「首、脇の下、鼠径部を冷やすのが一番!」と信じていました。しかし、ある論文や書籍を読んで、私の常識は覆されました。
熱中症の症状を人為的に作り出して研究するのは難しいので、運動によって意図的に体温、特に体の奥の温度である 深部体温(しんぶたいおん) を上げて、その後の冷却方法を比較するという研究が行われたのです。
その結果、驚くべき事実が判明しました。
それは、 「首、脇の下、鼠径部を冷やすよりも、手のひら、足の裏、そして頬を冷やす方が、深部体温をより早く下げることができる」 というものだったのです!
これは、スタンフォード大学の研究チームが発表した論文にも裏付けられています。
Lissoway JBら, Novel application of chemical cold packs for treatment of exercise-induced hyperthermia: a randomized controlled trial. Wilderness Environ Med. 2015 Jun;26(2):173-9.
この研究では、運動によって体温が上がった健康な男性ボランティアに、従来の冷却方法(首、脇の下、鼠径部)と、新しい冷却方法(頬、手のひら、足の裏)を試してもらい、体温が下がるスピードを比較しました。結果は、新しい冷却方法の方が明らかに体温の低下が速かったのです。
「え、そうだったの!?」と、私も思わず声が出ました。だって、これまでの常識とは全く違うのですから。
実際にどうするの?新しい熱中症の冷却方法
湊くんのママのエピソードに戻りましょう。(これはフィクションです)
ぐったりした湊くんを見て、心配になったママは、スマホで「子どもの熱中症、冷やし方」と検索しました。すると、ユアクリニックお茶の水のブログ記事が出てきて、そこに「新しい冷却方法」について書いてあるのを見つけました。
「え、手のひらと足の裏?頬?」
半信半疑ながらも、ママはすぐに冷凍庫から保冷剤を取り出し、薄いタオルでくるんで、湊くんの手のひらと足の裏、そして頬に当ててみました。するとどうでしょう。数分もしないうちに、湊くんの顔色が少しずつ良くなり、うっすらと目を開けました。
「ママ…ちょっと楽になったかも…」
その言葉に、ママは心底ホッとしました。
この新しい冷却方法は、服を脱がせる必要がなく、どこでも簡単に試すことができるという利点があります。冷凍庫にある保冷剤、ペットボトル飲料など、身近なもので実践できるのが嬉しいですよね。
実は、日本赤十字社のホームページにも、手のひらや足の裏、頬の冷却が紹介されています。
また、 「前腕冷却」 といって、腕全体を冷やす方法も有効だと言われています。
熱中症は、放っておくと脳にダメージを与え、高体温によって脳細胞の機能が侵されると、元に戻らないこともあります。さっきまで元気だったのに、急に意識がもうろうとしたり、会話がおかしくなったり、普段と違う言動が見られたら、それは時間との勝負です。救急車を待つ間も、日陰に移動させて、積極的に体、特に手のひら、足の裏、頬を冷やしてあげてください。
ユアクリニックお茶の水の杉原院長より、夏を乗り切るメッセージ
当院では小児アレルギーや小児漢方にも力を入れています。しかし、何よりも皆さんに伝えたいのは、やはり 「予防」 の大切さです。
安全なワクチン接種を強く願うのも、子どもたちが病気から身を守り、健やかに成長してほしいという思いがあるからです。熱中症もまた、予防が何よりも大切です。こまめな水分補給、休憩、そして今日お伝えした新しい冷却方法も、いざという時のためにぜひ覚えておいてください。
夏は楽しいイベントがたくさんあります。子どもたちが元気いっぱいに夏を過ごせるように、私たちユアクリニックお茶の水は、いつでも皆さんの健康をサポートします。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。