食物アレルギー指導のホントのところ
今回は、最新の医学知識をギュッと詰め込んで、私たちが診察室でお伝えしている「アレルギー指導のホントのところ」を、物語のようにお話しします。
変化し続けるアレルギー診療
変化し続けるアレルギー診療。昔の常識は、今の非常識?
私が医師になったばかりの頃は、「血液検査で反応が出たら、一滴も食べさせないで!」という完全除去が当たり前でした。でも、今の王道は「食べられる範囲を見つけて、安全な量だけ食べる」という考え方です。
でも、ここで一つ大切な注意点があります。
最近、海外で「ラダー(はしご)」という、自宅でどんどん食べる量を増やしていく方法が流行っています。でも、これはとても危険を伴う方法なんです。
実は、海外ではこの「ラダー」による悲しい事故も報告されています。私たち日本の専門医は、検査もせずに家で勝手に量を増やすことは、絶対にお勧めしません。
「100人中99人が大丈夫でも、1人が重い症状になるかもしれない」
私たちは、常にこの怖さを抱えながら診療しています。だからこそ、家で進める時は「石橋を叩いて渡る」ような慎重さが必要なんです。
魚アレルギーの意外な落とし穴
魚のアレルギー、実は「部位」や「加工」で変わるんです
「サケを食べると口が痒くなるけど、お寿司は好きなんです」
そんな相談を受けることがあります。魚のアレルギーの正体は、主に「パルブアルブミン」というタンパク質です。
面白いことに、このタンパク質は魚の部位によって量が違います。運動量が多い背中側より、お腹側の方が少なかったりするんですよ。
また、このタンパク質は水に溶けやすい性質があります。だから、水にさらして作る「ちくわ」などの練り製品や、高温で処理される「缶詰」なら食べられる、という子も多いんです。
ちなみに、サケって実は「白身魚」だってご存知でしたか?身が赤いのはエサの色なんです。アレルギーの世界では、見た目の色よりも「どのタンパク質に反応しているか」が重要です。
アレルギー?それとも別の原因?
それって本当にアレルギー?意外な「犯人」がいることも
ある3歳の男の子が、「アーモンド入りのアイスを食べて、体にブツブツが出た!」と駆け込んできました。
お母さんは「ナッツアレルギーだわ!」と青ざめていましたが、詳しくお話を聞くと、何だか様子が違います。ブツブツは翌日になっても消えず、痒みもありません。喉には赤い点々が...。
検査の結果、犯人はアーモンドではなく「溶連菌」という細菌の感染症でした。
アレルギーの症状は、食べてから通常2時間以内に現れ、数時間でスーッと消えていくのが普通です。もし翌日まで症状が残るなら、それは別の原因かもしれません。
何でもかんでも「アレルギーのせい」にせず、冷静に「いつ、何を、どれくらい食べて、どうなったか」を観察することが、正しい診断への第一歩です。
急増するナッツアレルギー
急増するナッツアレルギー。くるみ・カシューナッツに要注意!
今、子供たちの間でナッツアレルギーがものすごく増えています。かつての「3大アレルゲン(卵・牛乳・小麦)」の牙城を崩すほどの勢いです。
特に「くるみ」と「カシューナッツ」には要注意。2025年度中には、カシューナッツも食品表示が義務化される予定です。
ここで覚えておいてほしいのは、「ナッツ類を一括りにしない」ということ。
カシューナッツがダメでも、アーモンドは大丈夫という子はたくさんいます。ただ、「くるみとペカンナッツ」「カシューナッツとピスタチオ」は親戚のようなものなので、セットで注意が必要です。
もし、アナフィラキシー(重いアレルギー症状)の経験がある場合は、当院のような専門の医療機関でしっかり検査を受けましょう。最近では「カシューナッツの中の、特に悪さをする成分(Ana o 3)」まで詳しく調べられるようになっています。
ピーナッツをナッツと勘違いしている人はいませんか?ピーナッツが生えている植物の状態をよーく観察してみましょう。あれは茎が地下茎という形をとってカラのついた実ができています。マメ科ラッカセイ属になります。木の実とは違うんですね。
エピペンの正しい使い方
エピペンは「お守り」ではなく「命を守る武器」
重い症状に備えて「エピペン」を処方されている方もいるでしょう。
私たちは、エピペンは原則「2本」持つことをお勧めしています。1本は学校、もう1本は常に本人と一緒に。
逆に、学校に「飲み薬(抗ヒスタミン薬やステロイド)」を預けることはあまり推奨していません。
なぜなら、飲み薬を飲ませて様子を見ている間に、エピペンを打つタイミングが遅れてしまうのが一番怖いからです。飲み薬は、呼吸が苦しいような重い症状には太刀打ちできません。
FPIES(食物蛋白誘発性胃腸炎)とは?
マーライオンのような嘔吐?「FPIES」を知っていますか
「卵黄を食べたら、3時間後にマーライオンみたいに何度も吐いたんです」
最近、日本で急増しているのがこのタイプ。以前は「新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症」と呼ばれていましたが、今は「FPIES」という呼び名が一般的です。
普通の卵アレルギー(卵白に反応することが多い)と違って、血液検査では反応が出にくいのが厄介なところ。でも安心してください。卵黄のFPIESは、多くの場合2歳くらいまでに治ると言われています。
このタイプのお子さんは、卵白は食べられることも多いので、不必要な「卵全般の除去」をしないことが大切です。
最後に
最後に:一人で悩まず、一緒に歩みましょう
アレルギーの診療は、まるで長い階段を一段ずつ上っていくようなものです。
時には立ち止まったり、少し戻ったりすることもあるかもしれません。でも、最新の知識と適切な管理があれば、多くのお子さんが安全に食事を楽しめるようになります。
「これって食べさせていいのかな?」「この症状、アレルギー?」
そんな不安があれば、いつでもユアクリニックお茶の水の門を叩いてください。
私たちは、お子さんの「美味しい!」という笑顔を、一番の目標にしています。
こちらの記事は、東京小児科医会報2025.October の記事「専門医がこたえる小児食物アレルギー指導Q&A」今井孝成先生の記事をリライトしたものです。
