食物経口負荷試験, ステップワイズOFC, アナフィラキシー, 自然治癒, 卵白特異的IgE
メニュー

食物アレルギー治療の常識:除去から食べるへ

食物アレルギー治療の常識は変わっています。 かつては原因となる食べ物を徹底的に排除する「除去」が主流でしたが、現在では少しずつ食べることで体を慣らしていくという考え方が広まっています。

経口免疫療法(OIT)とは?

2008年頃の研究で提唱された経口免疫療法(OIT)は、アレルギーの原因となる食物を少量ずつ摂取することで、体が慣れていくという考え方です。

これは、走り高跳びの例で考えるとわかりやすいでしょう。いきなり高い壁を乗り越えるのは難しくても、低い壁から少しずつクリアしていくことで、最終的には高い壁も乗り越えられるようになるというイメージです。少しずつアレルゲンを摂取することで、体がアレルゲンに慣れていくのです。

ステップワイズOFC(食物経口負荷試験)とは?

現在では、病院で安全に食べられる限界の量(閾値)を調べて、その範囲内で少しずつ食べていくステップワイズOFC(食物経口負荷試験)という方法が主流になりつつあります。

食物アレルギー治療のステップ

食物アレルギー治療は、以下のステップで進められます。

ステップ1 安全に食べられる限界の量(閾値)を検査で確認
ステップ2 ごく少量(例:卵1/100個)から摂取を開始
ステップ3 体に慣れてきたら、少しずつ量を増やしていく(例:卵1/32個)
ステップ4 目標は、日常摂取量を食べられるようになること

少量から始めるほどゴールが近い?驚きのデータ

「食べる練習をするにしても、どれくらいの量から始めるのがいいの?」という疑問に対する興味深いデータがあります。ある専門病院の研究データによると、ごく少量から始めた方が、耐性獲得までの期間が短いという結果が出ています。

以前は、卵アレルギーの子に対して「卵1/32個(ほんのひとかけら)」からチャレンジしていました。これでも十分少ない量です。でも、2019年からはもっともっと少ない「卵1/100個(耳かき一杯程度)」からスタートするように方針を変えたそうです。

卵アレルギー治療、開始量別の比較データ

  • 1/32個スタート群:食べられるようになるまで 2.4年
  • 1/100個スタート群:食べられるようになるまで 1.4年

なんと、1年も早く治っているのです! さらに、4年後に治っていた確率は、1/100個スタート群では 95% にも達しました(1/32個群は70%)。

このデータから、「怖がって完全除去するより、どんなに微量でもいいから、できるだけ早く『体への挨拶(摂取)』を始めたほうが、体は仲良くなりやすい」という可能性が見えてきました。

卵アレルギーが治るまでのスピード比較

極微量(1/100個)から始めたグループは約1.4年で耐性獲得。少量(1/32個)から始めたグループは約2.4年で耐性獲得という結果が出ています。

小さく始めるほうが早いことがわかります。

「お家で適当に」が一番危険な理由

「じゃあ、今日から家で卵をちょっとずつ食べさせてみます!」と安易に考えるのは危険です。自己判断は絶対にやめましょう。「食べて治す」ことには、常にリスクが伴います。

食物アレルギーの子が自宅でアレルゲンを食べる場合、ショック症状(アナフィラキシー)が起きる確率は、CT検査などで使う造影剤でアレルギーショックが起きる確率よりも10倍〜100倍以上高いというデータもあります。

血液検査の数値(IgE値)が低くても、症状が軽く済むとは限りません。 「1/100個なら大丈夫だろう」と油断して食べさせたら、予期せぬ強い症状が出て救急車……なんてことになったら、お母さんもお子さんも一生のトラウマになってしまいます。

「食べて治す」治療は、必ず専門の医師の指導のもと、「万が一症状が出た時の対応」までしっかり準備した上で行う必要があります。

焦らなくて大丈夫。自然に治る力も信じて

「早く食べさせなきゃ治らない!」と焦って、ストレスを感じていませんか?食事の時間が、お母さんにとってもお子さんにとっても「訓練」や「恐怖の時間」になってしまっては本末転倒です。

実は、鶏卵や牛乳、小麦のアレルギーは、特別なことをしなくても、3歳までに約50%、6歳までに約80%の子が自然に食べられるようになることがわかっています。

子どもたちの体には、もともと「治ろうとする力」が備わっているのです。

無理やり食べさせて、お子さんが「食べることは怖いことだ」と感じてしまったら、心に傷が残ります。お母さんが不安な顔をしてスプーンを差し出せば、その不安はお子さんに伝染します。

今はアレルギー治療の過渡期です。「積極的に食べる」のが良いのか、「慎重に待つ」のが良いのか、正解はお子さん一人ひとり違います。

だからこそ、私たち専門家がいます。インターネットの情報だけで判断せず、ぜひ診察室で相談してください。「この子にとってのベスト」を一緒に探しましょう。

おいしく、楽しく、安全に。焦らず一歩ずつ進んでいきましょうね。


こちらの記事は、東京小児科医会報2025.October の記事「食物アレルギーの診療 アレルゲンは積極的に食べさせたほうがいいのか」今井孝成先生の記事をリライトしたものです。杉原は、今井先生とは昭和大学の小児科医局でご一緒させていただきました。

今井孝成先生は東京慈恵会医科大学の出身でしたが、当時の飯倉洋治教授を追いかけて昭和大学の小児科医局に入局したのでした。ご自身も小児喘息があったので、アレルギーに対する情熱と患者さんへの説得力は心に感じるものがありました。


▲ ページのトップに戻る

Close

HOME