苦味の不思議な力!〜風邪やアレルギーから体を守る、味覚以外の苦味センサーのお話〜
皆さんは「苦味」と聞くと、どんなことを思い浮かべますか? 「ピーマン嫌い!」とか「にがい薬は苦手…」なんて声が聞こえてきそうです。でも実は、この「苦味」を感じるセンサーには、私たちの体が風邪やアレルギーと戦うための、とってもすごい秘密が隠されているんです!今回はアレルギー学会雑誌でおもしろい論文をよんだので、その不思議な「苦味センサー」のお話をわかりやすくお伝えしますね。
苦味センサー「TAS2R」ってなあに?
まず、私たちの舌には「味を感じる細胞」がたくさんあります。甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦い、うま味、この5つの味を感じる細胞があるのですが、特に「苦味」を感じるセンサーのことを、専門的には「TAS2R(ティーツーアール)」と呼んでいます。これは、体の中にある「Gタンパク質共役型受容体(GPCR)」という種類のセンサーの一つなんです。
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)って? 少し難しい言葉ですね。例えるなら、携帯電話のアンテナのようなものです。GPCRは、体の中の細胞の表面にあって、特定の信号(この場合は「苦味」の成分)が来ると、それを受け取って細胞の中に「こんな信号が来たよ!」と伝える役割をしています。まるで、体の細胞が持っている「情報伝達のアンテナ」のようなものだと考えてみてくださいね。
このTAS2R、実は2000年に初めて見つかった新しいセンサーで、人間の体には25種類もの仲間がいることがわかっています。マウスには35種類もあるんですよ。
舌だけじゃない!体のあちこちにある苦味センサーの秘密
「苦味センサーがあるのは舌だけじゃないの?」って思いますよね。私も最初はそう思っていました。でも最近の研究で、舌以外の体の色々な場所にもTAS2Rがあることがわかってきたんです!
例えば、鼻の奥にある「副鼻腔(ふくびくう)」という場所。ここは、風邪をひくと鼻水がたまって炎症を起こしやすい場所ですよね。実はこの副鼻腔の細胞にもTAS2Rがあるんです。特に「TAS2R38」という種類のTAS2Rは、バイ菌が出す成分を感じ取ると、一酸化窒素という物質を出してバイ菌をやっつけたり、鼻の奥にある小さな毛(「繊毛(せんもう)」といいます)の動きを活発にして、バイ菌を体の外に追い出す手助けをしてくれることがわかってきました。
繊毛(せんもう)って? 例えるなら、体のホウキのようなものです。副鼻腔や気管の中には、目に見えないくらいの小さな毛がたくさん生えています。この毛が、ホウキのようにチリやホコリ、バイ菌などを掃き出して、体をきれいにしてくれているんです。
だから、このTAS2R38の働きが強い人は、慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)という、鼻の奥の炎症が長引く病気になりにくい、なんてこともわかってきているんですよ。
呼吸を楽にする苦味の力!
さらに驚くことに、この苦味センサーは、肺につながる「気道(きどう)」という空気の通り道にもあるんです!
気道には「気道平滑筋(きどうへいかつきん)」という筋肉があって、これがキュッと縮まると、空気が通りにくくなって息が苦しくなります。喘息(ぜんそく)の時にゼーゼーしたり、咳が出たりするのは、この気道平滑筋が縮んでしまうからなんです。
ところが、この気道平滑筋にあるTAS2Rに「苦味」の成分が届くと、なんと!キュッと縮んでいた筋肉がスーッと緩んで、気道が広がり、呼吸が楽になることがわかってきました!これは、喘息の治療に使われるお薬と同じくらい、もしくはそれ以上の効果があるという研究結果もあるんです。
そして、この苦味による気道を広げる効果は、喘息のお薬とは違う仕組みで働くので、お薬が効きにくい時でも効果がある可能性がある、と期待されています。
苦味センサーのこれから
このように、苦味センサーは、私たちの体が病気から身を守ったり、呼吸を楽にしたりするために、とても大切な役割を担っていることがわかってきました。
今はまだ研究段階ですが、この苦味センサーの働きを上手に利用して、新しい風邪薬や喘息のお薬が開発される日が来るかもしれません。もしそうなったら、苦い薬も、もしかしたら「体を守ってくれる頼もしい味」に変わるかもしれませんね!
私たちユアクリニックお茶の水の杉原院長は、普段からお子さんのアレルギー治療や漢方治療にも力を入れていますが、何よりも「予防」が大切だと考えています。苦味センサーの研究のように、体の仕組みを深く理解することで、病気にならない体づくりや、病気になったとしても早く良くなるための新しい方法が見つかることを心から願っています。そして、お子さんたちが安心して、安全に予防接種を受けられるような環境づくりにも力を入れています。