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喘息とアレルギー、もしかして職場が原因かも?身近な環境と病気の深い関係

[2025.06.11]

実は私たちの身の回りには、アレルギーや喘息を引き起こしたり、悪化させたりする様々な要素が潜んでいます。特に、大人の方で「もしかして仕事が原因?」というアレルギーや喘息が増えているのをご存知でしょうか。

アレルギー学会雑誌74巻に興味深い論文があったのでこちらに内容を紹介しようと思います。

環境が病気にどう影響するの?

人間の体と病気の関係はとても複雑で、まるでパズルのようです。生まれ持った体質(これを「遺伝的要因」と言います)と、周りの環境(例えば、吸い込む空気や食べるものなど。これを「環境的要因」と言います)が組み合わさって、病気が引き起こされることが多いんです。喘息も、この遺伝的な体質と環境的な要因が影響し合って起こったり、悪くなったりする代表的な病気なんですよ。

最近では「エクスポゾーム」という考え方が注目されています。これは、私たちが生まれてから一生の間に触れるすべての環境要因、例えば化学物質、食べ物、大気汚染、そして日々の暮らしや社会的な状況など、その全てをひっくるめて考えるものです。。このエクスポゾームが私たちの体の中にある遺伝子と影響し合って、健康に様々な影響を与えると考えられています。

アレルギーや喘息に影響する環境要因は、主に5つのタイプに分けられます。

  1. 幼い頃の環境:お母さんのお腹の中にいる時や、生まれてすぐの時期に、空気の汚れや特定の食べ物、抗生物質などに触れると、体の免疫システム(体を守る大切な仕組み)の発達に影響が出ることがあります。これがアレルギーや喘息のリスクを高める可能性があるんです。
  2. 少しずつ増えていく環境要因:これは、年齢とともに少しずつ体に蓄積されていく環境要因のことです。例えば、長い期間にわたる空気の汚れや、喫煙などがこれにあたります。(まるで少しずつ重くなる荷物を背負っていくようなイメージで、体に負担がかかっていく感じです)。
  3. お仕事での環境要因(職業曝露):これは、職場にある化学物質、アレルギーの原因となるもの、ホコリ、煙などに触れることです。農業、建設業、溶接作業、そして私たちのような医療関係の仕事など、特定の職業で喘息やアレルギーのリスクが高くなることが報告されています。
  4. じわじわと続く低いレベルの環境要因:大気汚染、ごくわずかな食品添加物、ストレスなど、低い濃度で継続的に触れることで、免疫システムに影響を与え、アレルギーや喘息を悪化させる可能性があります。(知らないうちに少しずつ体に積み重なっていくようなイメージです)。
  5. 色々な環境要因が重なる場合(複合的な曝露):これは、色々な環境要因が同時に、または次々に起こることで、喘息やアレルギーのリスクが高まることです。例えば、食生活の変化、肥満、運動不足、環境汚染、感染症、住む場所の変化などが複雑に絡み合う場合などです。。現代社会では、この複合的な曝露が最も一般的なパターンで、喘息の増加に関係している可能性があると言われています。

アレルギーや喘息になるリスクは、たった一つの環境要因だけで決まるのではなく、私たちが一生の間に様々な環境要因に触れることが積み重なって決まると考えられています。最近では、地球温暖化や気候変動も、私たちの体の「気道のバリア機能」(空気が通る道を病原体などから守る機能)を壊し、喘息やアレルギーを増やす原因になっている可能性も指摘されているんですよ。

世界の肺の病気(がんを除く)のうち、約6%は仕事が関係していると推測されています。特に「職業性喘息」や「過敏性肺炎」という病気が主なものとして挙げられます。

お家の中の環境も実は大切

私たちは一日の約90%もの時間を家の中で過ごすと言われています。だから、家の中の空気の汚れ(これを「室内空気汚染」と言います)も、実はとても重要な問題なんです。

家の中の汚染物質として問題になるものがあります。

  • PM2.5(ピーエム2.5)などの粒子状物質:料理、タバコ、お線香、そして外から入ってくる空気などが主な原因です。とても小さいので、肺の奥深くまで入り込んで、炎症を起こすことがあります。(これはフィクションですが、まるで目に見えない砂のようなものが肺にたくさん入ってしまうようなイメージです)。
  • 二酸化窒素(NO2):ガスコンロやガス暖房を使うと発生することがあり、喘息のリスクを高める可能性があります。
  • 揮発性有機化合物(VOCs:ブイオーシーエス):これは、建物の材料、塗料、接着剤、お掃除用品、香りのする製品などから発生する化学物質です。喘息や気道が敏感になる「気道の過敏症」を悪化させる可能性があります。

特に、お掃除のお仕事や、医療現場で使う洗剤の成分が、アレルギー疾患の発症や悪化に関係していることが近年注目されています。

職業性喘息ってどうやって診断するの?

職業性喘息」は、特定の職場で特定の物質に触れることで起こる喘息のことです。大人の方の喘息全体の約5~20%がこれにあたると言われています。

診断では、まず「もしかして、お仕事が関係しているのかな?」と疑うことがとても大切です。患者さんにお話を聞く「問診(もんしん)」を丁寧に行うことが推奨されています。最近では、「職業関連曝露(ばくろ)マトリックス(JEMs:ジェムズ)」というツールも活用され、より詳しくリスクを評価できるようになっています。

検査としては、息を吐き出す速さを測る「ピークフロー測定」や、特定の物質に対するアレルギー反応に関わるタンパク質を測る「IgE抗体(アイジーイーこうたい)の測定」、そして吐く息に含まれる「一酸化窒素(FeNO)」というガスの濃度を測る検査など、複数の検査を組み合わせて診断の正確さを上げていきます。

最近の職業性喘息の傾向と、これからの課題

アメリカの報告では、1988年から2018年の間に、仕事関連の喘息は減る傾向にあったそうです。でも、興味深いことに、洗剤が原因とされた割合は増えていたんですよ。

日本からも、洗剤や「界面活性剤(かいめんかっせいざい)」(洗剤の成分の一つです)が、空気の通り道である「気道」の細胞に「IL-33(アイエル33)」という物質を増やし、アレルギー性の炎症を引き起こすことが報告されています。アレルギーの症状は、体の表面、例えば鼻や喉の粘膜、あるいは皮膚などに出やすいことから、体の外と直接触れる「上皮細胞」(表面の細胞)がアレルギーの病気にとても重要な役割を果たすと考えられています。

治療と予防・対策

職業性アレルギー疾患の治療で一番大切なのは、原因となっている物質に触れるのを避けることです。職場での換気を良くしたり、個人用の保護具(マスクなど)を使ったり、職場環境を適切に整えることが勧められます。

職業性喘息の治療は、一般的な喘息と同じように、吸入ステロイド薬を中心に、ガイドラインに沿って早めに治療を始めることが大切です。もし薬で喘息のコントロールが難しい場合は、転職や配置転換で原因物質にまったく触れないようにすることも必要になることがあります。職場全体での禁煙も非常に重要です。重い喘息には、「バイオ製剤」という新しいタイプの薬が使われることもあります。

また、イソシアネートのような非常に小さい分子の物質に対しては、正しい「有機ガス用のマスク」と、それに吸収缶が付いた「防毒マスク」を使うことが必須とされています。

マイクロ・ナノプラスチックと体の炎症

最近では、とても小さなプラスチックの破片である「マイクロ・ナノプラスチック」がアレルギーに与える影響が注目されています。妊娠中にプラスチック由来の化学物質に触れると、生まれてくるお子さんの喘息の発症や肺の機能に、長期的な影響を与える可能性があることが報告されているんです。

まとめ

職業性喘息の診断と治療には、皆さんの周りの環境要因を詳しく評価することを含む、総合的なアプローチが必要です。早く診断して、原因物質に触れるのを避けることが、皆さんの生活の質(QOL:生活のしやすさや満足度)を向上させるために役立ちます。

ユアクリニックお茶の水では、私、杉原桂が、赤ちゃんから大人まで、地域の皆さんの健康をサポートしています。アレルギーの専門家として、皆さんの体質や生活環境をじっくりと伺い、最適な治療法をご提案させていただきます。もちろん、予防も大切にしていますので、ワクチン接種についてもどうぞご相談ください。

「もしかして、この症状、アレルギーかな?」「なんだか職場で咳が出る気がする…」など、少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にユアクリニックお茶の水にご相談ください。私たちと一緒に、安心できる毎日を取り戻しましょう。

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