赤ちゃんの頭のゆがみ（斜頭症）の治療：ヘルメットと保存的治療、どちらを選ぶ？
地域総合小児科医の杉原です。
今日は10月6日。七十二節気でいうと「秋分（しゅうぶん）」の末候にあたる「水始涸（みずはじめてかるる）」の時期（10月3日〜7日頃）です。これは、水田の水を抜き、稲刈りの準備を始める頃、という意味があります。実りの秋、赤ちゃんたちもすくすくと成長する大切な季節ですね。
さて、私どもユアクリニックお茶の水は、ベビーヘルメット治療（頭蓋形状矯正ヘルメット療法）の専門外来を設けており、多くの保護者の方から「赤ちゃんの頭のゆがみ（位置性斜頭症）は、ヘルメット治療と、向き癖を直すなどの保存的治療のどちらが良いのでしょうか？」というご相談を受けます。
今回のテーマは、この疑問に答えるための最新の論文を解説するものです。
研究の目的：ヘルメット治療と保存的治療の効果を比較
「位置性斜頭症（PP）」とは、同じ方向を向く癖（向き癖）などが原因で、赤ちゃんの頭の一部が平らになったり、ゆがんだりする、乳児期によく見られる頭の非対称性のことです。
この研究は、斜頭症（頭のゆがみ）の治療法である
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保存的治療：体位変換（タミータイム、向き癖の改善）や理学療法など
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ヘルメット療法：専用の矯正器具（ヘルメット）を装着して頭の形を整える方法
について、どちらが正常な頭の形に近づける効果が高いのかを比較するために行われました。
研究の方法：少し重症度の高い赤ちゃんたちを比較
この研究では、中程度から重度の斜頭症と診断された72人の赤ちゃん（治療期間90日以上）が対象となりました。
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保存的治療グループ：36人
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ヘルメット療法グループ：36人
それぞれの赤ちゃんの頭の形を、専用の3次元スキャナー「StarScanner」で正確に測定し、治療の前後でどのくらい改善したかを比較しました。
特に、頭のゆがみの程度を示す指標として「頭蓋冠非対称指数（CVAI）」という数値が使われます。この数値が小さくなるほど、頭の形が対称的（ゆがみが少ない）になったことを意味します。
研究の結果：矯正速度は同じだが、重症例にはヘルメットの利点も
研究の結果、以下の点が明らかになりました。
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頭のゆがみを治すスピード（CVAIの月間修正速度）：
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ヘルメット療法グループも保存的治療グループも、改善するスピードは同じでした（有意差なし）。
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＜専門用語の解説＞
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有意差（ゆういさ）：偶然ではない、はっきりとした差があることを指します。「有意差がない」とは、統計的に見て、二つの治療法の効果に大きな違いはない、ということです。
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重症度の軽減（頭のゆがみが大きく改善したか）：
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ヘルメット療法グループの方が、重症度が大きく改善した赤ちゃんが多く見られました（67%が改善 vs. 42%が改善）。
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ヘルメット療法を受けた赤ちゃんは、より重症度が軽いレベル（レベル1）まで回復した割合も保存的治療グループより高い傾向がありました（25% vs. 11%）。
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この結果は、より重症の斜頭症においては、ヘルメット療法が効果的に頭の形を整える可能性を示唆しています。
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「早期開始」と「治療期間の長さ」が重要：
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すべての治療において、治療開始が早いほど、改善度が高いという強い関連が見られました。
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治療期間が長いほど、CVAI（頭のゆがみ）の軽減が大きくなる傾向がありました。つまり、根気よく治療を続けることが大切です。
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＜身近な例え話＞
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赤ちゃんの頭のゆがみを直すのは、畑に植えた苗をまっすぐ育てるのに似ています。
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「早期開始」は、苗がまだ柔らかい芽のうちに支柱を立ててあげることです。早ければ早いほど、無理なくきれいにまっすぐ育ちます。
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「治療期間の長さ」は、支柱を立ててから、苗がしっかり根付いて太い茎になるまで、十分に時間をかけて見守ることです。途中でやめてしまうと、また曲がってしまうかもしれません。
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杉原院長からのメッセージ：最も大切なのは「早めの相談」
今回の研究から、私たちは以下の重要なメッセージを受け取ることができます。
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早期治療開始が、良好な結果の最も強力な予測因子である。
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ヘルメット療法は、特に重度の斜頭症において、重症度を軽減する大きな利点がある可能性がある。
保存的治療もヘルメット療法も、どちらも頭の非対称性を軽減する効果が認められています。どちらの治療法を選ぶにしても、生後早い段階で専門家に相談し、治療を始めることが極めて大切なのです。
「頭のゆがみが気になるけれど、まだ早いかな？」と迷う前に、ぜひ一度、当院にご相談ください。ユアクリニックお茶の水では、ベビーヘルメットの専門的な診断だけでなく、小児アレルギーや小児漢方にも精通した医師が、赤ちゃんの成長全体を見据えたアドバイスを行います。
私たちは、赤ちゃんの予防と安全を最も重視しています。頭のゆがみについても、専門的な視点と優しい心で、保護者の皆様の不安に寄り添います。
