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乗り越えたからこその「安心」~ハルトくんと、おたふくかぜからの成長~

[2025.05.31]

今日は千代田区は曇り時々雨ですが、心は晴れやかに過ごしましょう!地域総合小児科医の杉原です。

麻しんの流行がおきそうで心配なので、前回麻しんの記事を書きました。

MRワクチンの流れで、風しんという病気の記事も書きましたので、1歳の誕生日にようやくうてるワクチンのもうひとつ、おたふくかぜ、という病気についても解説をしておきましょう。

 

「おたふくかぜ」を乗り越えた先に~親子の笑顔を守る、免疫という宝物~

「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎:りゅうこうせいじかせんえん)」という病気をご存知でしょうか?

おたふくかぜは、「おたふくかぜウイルス(ムンプスウイルス)」というウイルスが原因で起こるVPD(ワクチンで防げる病気)です。多くの場合、耳の下が腫れるだけで済むと思われがちですが、実は多くの合併症(病気にかかった時に、別の病気が一緒に起こってしまうこと)を引き起こす可能性があり、決して軽視できない病気なんです。日本では、毎年約60万人もの子どもたちがかかり、その多くが合併症に苦しんでいます。

しかし、この病気にはもう一つの大切な側面があります。それは、一度かかって免疫(体の防御システムのことです。悪い菌やウイルスから体を守ってくれる、いわば体の中の警察官みたいなものです)を獲得すれば、再びかかりにくくなる、ということです。まるで、一度嵐を乗り越えた船が、嵐の進み方を知って強くなるように、体も病気を経験することで強くなることがあるんです。

おたふくかぜがどんな病気なのか、そして「自然に免疫を獲得する」ことについて、具体的にイメージしにくいかもしれませんね。そこで今日は、ユアクリニックお茶の水にやってきた、ある家族のお話を通して、おたふくかぜと免疫の大切さをお伝えしたいと思います。

乗り越えたからこその「安心」~ハルトくんと、おたふくかぜからの成長~

「先生、こんにちは。ハルトのことなんですけど…」

ある夏の日、ユアクリニックお茶の水の診察室に、小学校2年生の元気なハルトくんと、お母さんが少し沈んだ表情でやってきました。ハルトくんは、耳の下を気にするように触っています。

「ハルトくん、どうしたのかな?夏休み、楽しく過ごしているかな?」と私が尋ねると、お母さんが話し始めました。

「それが、夏休みに入ってすぐにハルトが『おたふくかぜ』にかかってしまって…。片方の耳の下が腫れて、熱も出たんです。幸い、もう熱は下がったんですけど、まだ耳の下が腫れていて、食欲もあまりなくて…。ハルトは1回ワクチンを接種していたんですけど、かかってしまって、2回目の接種はどうしたらいいのかと思って…。」

私は、ハルトくんの耳の下を診察しながら、おたふくかぜについて説明を始めました。

「ハルトくん、おたふくかぜ、辛かったね。おたふくかぜはね、この耳の下にある唾液腺(だえきせん:ご飯を食べた時に唾液を出すところだよ)が腫れて、痛くなる病気なんだ。両方が腫れる子もいれば、片方だけの子もいるんだよ。」

ハルトくんは、うんうんと頷きながら聞いています。

「おたふくかぜは、多くの場合、比較的軽く済むことが多いのですが、中には思わぬ合併症を起こすことがあります。例えば、約50人に1人の割合で、脳に炎症が起こる『無菌性髄膜炎(むきんせいずいまくえん:脳や脊髄を覆う膜が炎症を起こす病気で、強い頭痛や吐き気を伴うことがあります)』になることがあります。さらに、約1,000人に1人の割合で、一生治らない重度の難聴(耳が聞こえにくくなること)になってしまうこともあるんです。これは、脳の病気や聴覚の障がいを伴い、人生に大きな影響を与える可能性があります。」

お母さんは、驚いて顔色を変えました。「難聴にまで…そんな、まさか…。」

「はい。日本では、毎年約30人のお子さんが、おたふくかぜが原因で、このような障がいを残したり、命を落とすことさえあります。また、思春期以降の男の子がかかると、精巣炎(せいそうえん:精巣という男性の生殖機能に関わる臓器が炎症を起こす病気)になることもあり、将来の不妊(子どもができにくくなること)につながる可能性も指摘されています。」

お母さんは、悔しそうに言いました。「ハルトには、1回目のワクチンしか受けさせていなくて…。2回目を勧められた時、『また今度でいいか』と思ってしまって。まさか、おたふくかぜがこんなに怖い病気だなんて知りませんでした。もし、ハルトの耳が聞こえなくなってしまったら…と思うと、胸が苦しいです。」

私は、お母さんの気持ちを理解しながら、免疫獲得について伝えました。

「お母さん、ハルトくんは、1回目のワクチンを接種していたにもかかわらず、今回おたふくかぜにかかってしまいましたね。これは、1回のワクチン接種だけでは、完全に感染を防げないこともあるからです。しかし、今回ハルトくんが自然におたふくかぜにかかったことで、体の中にしっかりと『おたふくかぜウイルスと戦う力』、つまり免疫ができたと考えられます。」

お母さんは、少し不思議そうな顔をしています。

「麻しんや風しん、水痘、そしてこのおたふくかぜのように、一度病気にかかって免疫を獲得した場合は、追加でワクチンを接種する必要はない、とされています。ハルトくんのように、病気にかかったことが確実な場合は、もうすでに体の中に『おたふくかぜのウイルスをやっつけるお守り』がしっかりと備わった、と考えて良いでしょう。」

ハルトくんのお母さんは、少し安心したように言いました。「そうなんですね!てっきり、もう一度ワクチンを打たないといけないのかとばかり思っていました。」

「はい。今回の感染で、ハルトくんはより確実な免疫を獲得できたと考えられます。もちろん、ワクチン接種を2回受けていれば、感染自体を防げた可能性は高かったですが、今回はかかってしまったからこそ、その後の免疫は強固になったと言えるでしょう。」

ハルトくんは、少し元気を取り戻した様子で、「早く元気になって、夏休み、お友達と遊びたいな」とつぶやきました。

後日、ハルトくんは無事に回復し、その後の健診では、お母さんが笑顔で話してくれました。

「先生、ハルトの耳の下の腫れもすっかり引いて、元気になりました!まさか、一度かかったらもうワクチンはいらないなんて、知らなかったです。今回は大変でしたが、ハルトの体が強くなったと思って、前向きに考えようと思います。」

ユアクリニックお茶の水から、あなたへ

ハルトくんのお話のように、おたふくかぜは「かかるのが当たり前」ではない病気です。軽い症状で済むことが多い一方で、一度かかると一生残るような合併症のリスクを伴うこともあります。ワクチンで防ぐのが理想的ですが、もし自然感染してしまった場合でも、それによって確かな免疫を獲得できることがあります。

大切なのは、お子さんの状況に合わせて、適切な予防と対応をすることです。

ユアクリニックお茶の水では、おたふくかぜをはじめとする予防接種について、丁寧に説明し、お子さんが安心して受けられるようサポートしています。また、もし病気にかかってしまった場合でも、その後のケアや、免疫の獲得について、きめ細やかにご相談に乗らせていただきます。お子さんのアレルギーや漢方についても、お気軽にご相談ください。

予防接種は、お子さんの未来を守る、大切なプレゼントです。不安なことや疑問に思うことがあれば、いつでもご相談ください。私たち小児科医は、お子さんたちが元気にすくすく育つことを心から願っています。

お子さんの予防接種スケジュールや、過去の罹患歴についてご不明な点がありましたら、お気軽にユアクリニックお茶の水までご相談ください。

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