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【緊急警報】猛威を振るう百日咳から赤ちゃんを守れ!〜現状と対策の最前線〜

[2025.05.09]

こんにちは!小児科専門医の杉原です。

近年、百日咳の感染者数が急増しており、特に小さな赤ちゃんにとって深刻な脅威となっています。今回は、この緊急事態の現状を詳しく解説し、私たちにできる対策について考えていきましょう。

深刻化する百日咳の現状

百日咳の患者数は、2022年の499件から2023年には1009件、そして2024年には4054件と驚異的な増加を見せています。2025年に入ってからもその勢いは衰えず、12週の時点で既に昨年1年間の患者数を超える4100件に達しており、このままでは年間1万人を超える可能性も指摘されています。

特に憂慮すべき事例として、東京都立小児総合医療センターでの集団感染があります。昨年11月以降、9人の赤ちゃんが百日咳と診断され入院し、そのうち生後1ヶ月の尊い命が失われました。これは、予防接種がまだ開始されていない低月齢の赤ちゃんにとって、百日咳がいかに危険な病気であるかを物語っています。

妊婦と家族へのワクチン接種:最重要の予防策

このような状況を踏まえ、赤ちゃんを百日咳から守るために最も重要な対策の一つが、妊婦へのワクチン接種です。

海外ではTdapワクチンが広く使用されていますが、日本では現在のところDPTワクチンを用いるしかありません。しかし、厚生労働科学研究によってその有効性と安全性はしっかりと確認されており、妊婦を含む成人への接種も適応として認められています。将来的には、日本でも妊娠中のDPTワクチン接種が一般的になることが期待されます。

さらに、生後間もない赤ちゃんは予防接種を受けられないため、赤ちゃんを迎える家族全員が百日咳含有ワクチンを接種することも非常に重要です。家族一人ひとりが免疫を持つことで、赤ちゃんへの感染リスクを大幅に減らすことができます。

日本におけるTdapワクチンとDPTワクチンの現状

日本でTdapワクチンは未承認ですが、かつて2014年に承認に向けた治験が行われました。しかし、その結果、「Tdapは、百日咳の予防効果が十分に期待できるような抗体上昇結果が得られなかった」として治験は終了し、現在のところ日本での導入の可能性は低いと考えられています。

一方、現在日本で使用されているトリビック(DPTワクチン)も同様の治験が行われ、91%の有効率が示されています。したがって、現時点では百日咳に対する追加接種として、TdapではなくDPTワクチンを選択することが適切と言えます。DPTワクチンは小児用としてだけでなく、全年齢で使用可能なワクチンです。

海外への渡航ワクチン外来では、Tdapワクチンが個人輸入で使用されることがありますが、これはあくまで留学先の学校などがTdapワクチンを必須としている社会的な理由によるものです。医学的な観点からは、百日咳、ジフテリア、破傷風の予防には、トリビック(DPTワクチン)で十分であり、むしろ推奨されます。

百日咳ワクチンの免疫持続期間と追加接種の必要性

百日咳ワクチンによって得られる免疫の持続期間は数年以下であることがわかっています。そのため、欧米では就学前と、日本の中学1年生にあたる時期に、計5〜6回の百日咳含有ワクチンの定期接種が行われています。日本においても、早期に同様の追加接種制度を導入することが急務であると考えられます。

産婦人科関連学会からの提言

日本産婦人科感染症学会のホームページでは、「妊娠に向けて知っておきたいワクチンのこと」が公開されており、その中で百日咳含有ワクチンを含むワクチンの接種が推奨されています。また、日本産婦人科学会も最新の提言(2025年4月25日)の中で、妊娠中の百日咳ワクチン接種の重要性を強調しています。

ワクチン供給の現状と課題

現在、百日咳ワクチンの需要が急増しており、製造元の田辺三菱製薬からは出荷調整の通知が出されています。年間製造本数は10〜15万本であるのに対し、今年は既にその5倍の注文が入っているとのことです。妊婦の数を70万人とすると、現在の供給量では1〜2割にしか行き渡らない計算となり、必要な人にワクチンが届かない可能性も懸念されます。

日本周産期新生児医学会からの注意喚起

日本周産期新生児医学会は、百日咳の流行と、治療に用いられるマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の出現に注意喚起を行っています。詳細は同学会のウェブサイトで確認できます。 https://www.jspnm.jp/modules/notice/index.php?content_id=152

今、私たちにできること

百日咳から大切な赤ちゃんを守るために、私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、適切な行動をとることが求められています。妊娠を考えている方、妊娠中の方、そして赤ちゃんを迎えるご家族の皆様は、ぜひ今回の情報を参考に、ワクチン接種について真剣に検討してください。そして、もし周りに咳が長引く人がいたら、早めに医療機関を受診するよう勧めてあげてください。

私たち小児科医は、これからも最新の情報を提供し、皆様の不安に寄り添いながら、お子様たちの健康を守るために尽力してまいります。

 

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